血沸かない肉躍らない
★★☆☆☆
薩摩次郎八のことを詳しく知ったのは、獅子文六の「但馬太郎治伝」を読んでからです。
さすが文六先生晩年の名作、自分と次郎八の奇妙な因縁を軸に、同時代のパリに暮らしながら自分の貧乏ぶりとなんでこんなに違うんだ「コンチクショウ」と言いつつ、次郎八本人と徳島で面会するクライマックスまで、何度読んでも読み飽きません。
「但馬太郎治」は小説ですから、評伝である本書と比べるほうがおかしいのですが、次郎八の波乱万丈の生涯を読んで血沸き肉躍るべきところ、本書ではそうはなりません。
勿論、次郎八の先祖やひとつひとつの事跡など、本書で初めて知ったことは多々ありますし、評伝ですから沈着冷静であるべきなんでしょうが、沈着冷静な評伝を読んでも血沸き肉躍るところが薩摩次郎八の生涯だと思いますから、その点が大いに残念。
時間をかけた、丁寧な執筆に拍手!
★★★★★
薩摩治郎八について、ひととおりのことは知れわたっていると思う。本書はその「ひととおり」のことをさらに詳しく検証し、誤りを正し、解明できることは(おそらく)ほとんど解明している。大変な力作だ。
治郎八についてはもちろんのこと、20世紀初頭のパリの日本人について、よく知ることができる。
ただ、私としては自転車競技と治郎八に関する記述が少ないのは残念だった。ツール・ド・フランスを日本に「初めて本格的に紹介」し、日仏交歓自転車競争を企画した治郎八に関する事柄が、私の持っている加藤一著『風に描く』を超えていない。
もっとも、これは治郎八自身が書き残していないせいなのだが。
素材が活かされてない
★★☆☆☆
薩摩治郎八というおいしい素材がありながら、どうも煮えきらない感じがしてならない。
彼がどのように育ったのか、記述がないわけではないがさらりと流しすぎている。
ヨーロッパで散財して芸術家のパトロンになった。でもそのあとへの影響が今一つ。
その当時の日本の社会背景とのギャップなどがあればもっと楽しめたのに。
単なる伝記?にしては、せっかくの素材が活かされていない。残念である。
半端でない日本人の魅力!
★★★★★
こんな日本人がいたのかと驚きました。一東洋人が、大正時代のパリでこんな華々しいことをと感嘆する一方、きっとパリの芸術家たちもそうであったように、バロン・サツマの人間としての魅力に惹かれました。人間を、芸術を、フランスを、日本を、人生を愛した治郎八。治郎八が私財でパリに日本館を設立することで、多くの留学生たちが様々な分野の人と交流し見聞を広め、その後の日本での活躍につながったことは、近代の日本文化の礎を築いたともいえますね。一代で財をなす祖父の時代から、華やかなパリの時代、無一文になった晩年へ・・自伝を裏付ける記録としても、人名と数字に、真実に迫る著者の情熱が込められているようです。それにしても著名となる人々が皆パリを目指した時代の熱気と…人間同志の交流に化学反応のような不思議さが…
超ド級の「教養人」
★★★★★
バロン・サツマの活躍は我々凡人には想像を絶するものがあります。単に好事家として見てしまうと明らかに誤りであることをこの本は気づかせてくれます。
美術、音楽、文学などなど極めて広範囲な分野で その才能の開花を待つ新進気鋭の芸術家との交流を見るとき バロン・サツマの芸術に対する端倪すべからざるセンスの切れを感ぜざるを得ません。 これは ともすれば我々が学歴という物差しで計ってしまう「教養」ではない 本当の「教養」とは何かをバロン・サツマが示しているということでありましょう。
フランスが 彼にレジョン・ドヌール勲章を与えたことは かの国がいかに文化、、芸術を高く評価し 「教養」を重視しているかの証左といえましょう。
このような「教養人」が かつて日本人にいたことを知らしめたこの本は 貴重でもありますし また このような日本人が出てきて欲しいものと思わせるものでもあります。