記録を残す事、それこそが“共生”と“共存”の基盤。
★★★★★
ここで描かれているのは、今なお紛争が絶えないパレスチナ問題の原点と真実。ナショナリズムの名の下での利己主義と人種差別。故郷を、かけがえのない者を一瞬にして理不尽に喪失してしまった人々の悲嘆。激化する抵抗と弾圧の負の連鎖。そして、ひとりのジャーナリストの信念と魂の記録だ。
1967年、イスラエルのあるコミューンへのボランティアにやってきた青年は、その地に点在する瓦礫の山に興味を抱き、それがかってパレスチナ人が生活していた村の残骸である事を知り、衝撃を受ける。
以来フォト・ジャーナリストとして、一貫してパレスチナ問題に拘り続ける広河隆一。今作は、1982年のイスラエル軍のレバノン侵攻時でのパレスチナ難民キャンプ虐殺直後に撮影されたフィルムを始めとする膨大な写真と映像の数々を紡いだ真摯なドキュメンタリー。
パレスチナ解放のデモの先頭で対峙する若きアラブ女性とイスラエル兵士、Vサインを掲げながらまじろぎせず毅然と兵士を見据える女性と正視出来ない兵士。抑圧する側とされる側の心の奥底をすくい取った見事なコントラスト。広河の有名なフォトの基となった映像も登場する。
そして、パレスチナ難民、虐殺を逃れた幼き姉妹、広河自身も在籍したイスラエル内で唯一占領反対を訴えていた活動組織マツペンの元活動家、歴史研究家のみならず、ユダヤ正規軍やユダヤ右派武装組織の元司令官まで幅広い証言により解明される“NAKBA”の真実。
“民族浄化”、かつて、ナチスドイツによって正当化された辛苦の歴史を自らもまた抑圧者として実践する、正に人間の持つ底知れぬ残虐性。
収録されているブックレイトでの、「勝者が歴史を作る時代では被害の歴史はかき消されていく」「ナチスが勝利していたら、ユダヤ人虐殺もなかった事にされたでだろう」「記録を残す事、それこそが“共生”と“共存”の基盤」とのロジックに強く共感。
今を生きる者として、広河の“記録”をしっかりと受け止めていきたい。