幻想的に漂う怪奇な短編集
★★★☆☆
男性版の笙野頼子氏のような独特の幻想模様。
ミステリアスでエロティシズムを醸し出した一風変わった異世界。
短編それぞれに、性と死が曖昧に宿り縺れ合う危うげな様相。
硬質にして精緻な珠玉の幻想短篇集
★★★★★
◆「赤假面傳」
村山槐多の評伝小説「音の連続と無窮変奏(槐多カブリチオ)」
に含まれていた作中作。
戦前の探偵小説を模したかのような旧仮名遣いの文体により、
美しい者の精気を吸い取り、画に定着させる異能を持つ、醜い
画家のたどる末路が、妖しく描かれます。
◆「黄昏抜歯」
原因不明の歯痛に苦しむ陶子は、学生時代から、
交際している婚約者との関係もうまくいっていない。
痛みに耐え切れず、出先で歯科医院に入った陶子は、
治療を受けながら、ふいに学生時代のことを思い出す……。
歯痛というのは、何にも増して、つらいものですよね。
そうした、歯痛に対する身体感覚に基づいたリアルな実感が、
「記憶は歯に宿る」という本作の着想に説得力を与えています。
歯痛によって、忌まわしい過去の記憶や罪が呼び起こされる、
という本作の趣向は、より劇的に構成することで、ホラーにも、
ミステリにも転化可能とも思いますが、あえて日常的な次元に
とどめることで、かえって印象深い余韻を生んでいます。
彼岸と此岸の狭間に現出する「異界」
★★★★★
◆「赤假面傳」
村山槐多の評伝小説「音の連続と無窮変奏(槐多カブリチオ)」
に含まれていた作中作。
戦前の探偵小説を模したかのような旧仮名遣いの文体により、
美しい者の精気を吸い取り、画に定着させる異能を持つ、醜い
画家のたどる末路が、妖しく描かれます。
◆「黄昏抜歯」
原因不明の歯痛に苦しむ陶子は、学生時代から、
交際している婚約者との関係もうまくいっていない。
痛みに耐え切れず、出先で歯科医院に入った陶子は、
治療を受けながら、ふいに学生時代のことを思い出す……。
歯痛というのは、何にも増して、つらいものですよね。
そうした、歯痛に対する身体感覚に基づいたリアルな実感が、
「記憶は歯に宿る」という本作の着想に説得力を与えています。
歯痛によって、忌まわしい過去の記憶や罪が呼び起こされる、
という本作の趣向は、より劇的に構成することで、ホラーにも、
ミステリにも転化可能とも思いますが、あえて日常的な次元に
とどめることで、かえって印象深い余韻を生んでいます。
ちょっとついていけない世界でした
★★★☆☆
もしかしたら、美を追求するとこういう世界になるのかもしれないな、と思いました。過去に読んだ他の作品が、漢字の使い方や表現方法など細部にわたるまで素晴しく、この本も試しに読んでみました。文章の切れはやはり素晴しいと思います。臨場感にあふれ、文字で書かれているのにその場面が映像で視界に飛び込んでくる。しかし、表現されている内容がややグロテスクで、その文章の切れのよさゆえに耐えられないのです。申し訳ありませんが、星は、3つにさせていただきます。
職人たろう、という姿勢に敬服
★★★★☆
最近の作家の中では、「文を書く」ということにきちんととりくんで
いる稀有な書き手の一人。
収録された作品の中には当たり外れもありますが、この作者を知るに
は他の本よりもお薦めの一冊。
「玄い森の底から」の一節に、「いい目をしてらっしゃる。ただ、
手がそれについていってませんな」という、書家の言葉がありますが、
作者自身にとっての自戒の言葉のような気がします。
「この程度の作品では、自分が今まで圧倒された偉大な作品に全く
太刀打ちできない」という思いを抱きつつ、作品を書いている作家
ではないでしょうか。もっと化けてほしい、という期待をこめて
☆4つ。