「おのれはひとり生き残るのじゃ。死んではならぬ・・・」
★★★★☆
赤穂浪士による吉良邸討ち入りに足軽身分からひとり参加した寺坂吉右衛門は、討ち入りの帰路、大石蔵之助から、脱出することを命じられた・・・。ひとり生き証人として生き抜くことを命じられた吉右衛門のその後半生を描いた連作短編。打ち入り直後、1年後、3年後、16年後を描く計4編からなる。
士分ではなく足軽という一段下の身分であることから来る差別、途中、再仕官や個人的な幸せを掴む道も有り得たにも関わらず、ひたすら孤独に使命に殉じた男の生き様を、著者は硬筆な筆致で描いていく。その厳格な描き様はなんとももどかしく、愛想のなさを通り越し、もっと報いてやってもいいのではないかと感じたほど。
最終章、吉右衛門と同様、大石蔵之助から使命を与えられ討ち入りに加わらなかった男たちの存在が明らかになっていくシーンは感動的・・。
死んでなお影響を与え続けた大石蔵之助の深慮遠謀と、一方で孤独な使命に後半生を殉じた男の生き方が印象的・・。