新しい余韻、永遠の謎
★★★★★
寺尾紗穂の4枚目のアルバムは全作品中、もっとも開放的で色彩豊かな作品だ。
前作の「風はびゅうびゅう」の反省点を踏まえて製作された寺尾紗穂による新しい余韻は
ジャケットの(偶然、水滴が付いた)ポートレイトに象徴されている。
カラフルな曲調が並ぶ前半はオープニングの「お天気雨」に象徴されるように
参加したミュージシャン(総勢15名)の特性が大きく生かされいて
彼女の歌との波動によって繰り広げられる演奏に思わず、息を飲むほど。
特に星野源の鮮やかなギターの音色はアルバムの全体像を決定付けた感があるほどだし
「思い出どおり」のOKIによるコントリ(アイヌの民族楽器)の耳慣れない、幻想的な音色にもうっとり。
ボッサ調の「午睡」ではママレイド・ラグの田中拡邦のギターが奏でるコントラストが
彼女のピアノと歌に見事に溶け合っている。
このアルバムでも寺尾紗穂の唯一無二の世界観は健在で
口角を上げることで自身を救う手引きになると歌う「口の角」、
生まれ変わったらあじさいの青になって愛する人の心に溶け込みたいという、
女性らしい感性が溢れる「あじさいの青」などその視点の鋭さには舌を巻くしかない。
都守美世作詞による「月の海」では珍しくフェンダーローズを使用しているが
パート別にリズムが変わることで躍動感に溢れ、美しいメロディーがさらに生き生きと脈打っている。
もっとも彼女らしい楽曲とも言える「夕まぐれ」の深遠さには惚れ惚れ。
闇に包まれる前の一瞬の光彩が美しい軌跡となり、深く心が揺れてしまう、、、
モウパッサンの小説からインスパイアされて作ったという「狂女」はアルバムのハイライトといえる衝撃的作品。
寺尾紗穂の独壇場ともいえるこの歌とピアノで彼女は多くの女性シンガーソングライターのある意味、
表現者としての指針となったのではないか、と言えるほどの力強さに溢れるナンバーだ。
ほどけない永遠の謎を歌うラスト・ナンバー「愛の秘密」でアルバムは静かに、華麗に幕を閉じる。
寺尾紗穂の歌とピアノは人が本来持っている、機敏な心の動きや葛藤、喜び、哀しみを
さりげなくそして優しく切り取ってくれるのだ。