シェイクスピアはこの作品で、やがて訪れる、人間性までが金に支配される資本主義体制の世界と、そこで生み出される悲劇を描こうとしたのだろうか? 彼の活躍した16世紀後半から17世紀のイギリスは、工場制手工業(資本主義的な最初の生産様式)への移行がはじまる、いわば最初期の「産業革命」の時期にあたっている。有名な東インド会社の設立もこの頃。貧富の差が広がりはじめ、失業者や浮浪者が社会問題となりつつあった。
イギリス経済を研究することで自分の哲学を成立させたマルクスもまた、熱心なシェイクスピア愛読者の一人だった。彼は初期の代表作のひとつ「経済学・哲学草稿」の中で、この「タイモン」からの引用を行っている。