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シェイクスピア全集 (〔32〕) (白水Uブックス (32))

価格: ¥840
カテゴリ: 新書
ブランド: 白水社
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LOVE IT! ★★★★★
一番立派なのはリア王でしょう。淫売だの犬の落とし子だの坐骨神経痛だのと、ひたすら汚い言葉をまきちらすシェイクスピアのスタイルが堪能したければこれでしょう。
人の悪口ばかり言ってる人間嫌いの哲学者アペマンタスが登場します。
タイモン「この絵をどう思う?」アペマンタス「最高だね、馬鹿馬鹿しいところが」タイモン「これを描いた絵描きの手並みは見事だろう」アペマンタス「その絵描きをこしらえた神の手並みのほうがましだよ、といってもできそこないの汚い作品だが」タイモン「いいだろう、この宝石は」アペマンタス「率直ほどにもよくないな、率直は人間の宝石だがびた一文にもならぬ、と言うがね」タイモン「どのくらいの値打ちがあると思う?」アペマンタス「思ってみるだけの値打ちもないと思うよ。やあ詩人」詩人「やあ哲学者」アペマンタス「嘘をつけ」詩人「あんた哲学者だろう」アペマンタス「そうだ」詩人「じゃあ嘘をついたことにはならんじゃないか」アペマンタス「おまえ詩人だろう」詩人「そうだ」アペマンタス「じゃあ嘘つきにきまってるじゃないか」
ひたすらこの調子で最高です。
タイモンもうわべばかりのとりまきにうらぎられ、破滅して、半狂乱になってからは、森の中で一人人間憎悪をわめきちらします。狂ったタイモンによる汚い言葉が本の半分ぐらいをしめてます。この憎悪にとりつかれた姿の激しさは、宇宙を呪うリア王がだぶります。そんなタイモンをたずねて来たアペマンタスが言います。おれは前よりあんたが好きになったと。シェイクスピアの台詞としかいいようがないと思います。

どうも解説によるとシェイクスピアの戯曲で「いちばん読まれることがすくなく、上演されることのまれな作品」という見方が一般的なんだそうです。作品としても未完成のようです。しかしわかってるカルトなファンが少なくないはずだと思います。
お金とは眼に見える神である。 4幕3場 ★★★★★
主人公のタイモンは、余りにも気前がいいため全財産を使い果たして破産してしまう。すると、これまで彼の恩恵を受けていた友人たちは、誰ひとり彼を助けようとしなくなる。人間嫌いになったタイモンは、人類を呪って森に引きこもる。するとそこで、皮肉にも大量の金を発見することになる・・。

シェイクスピアはこの作品で、やがて訪れる、人間性までが金に支配される資本主義体制の世界と、そこで生み出される悲劇を描こうとしたのだろうか? 彼の活躍した16世紀後半から17世紀のイギリスは、工場制手工業(資本主義的な最初の生産様式)への移行がはじまる、いわば最初期の「産業革命」の時期にあたっている。有名な東インド会社の設立もこの頃。貧富の差が広がりはじめ、失業者や浮浪者が社会問題となりつつあった。

イギリス経済を研究することで自分の哲学を成立させたマルクスもまた、熱心なシェイクスピア愛読者の一人だった。彼は初期の代表作のひとつ「経済学・哲学草稿」の中で、この「タイモン」からの引用を行っている。