『刺青殺人事件』『死神博士』はこうして生まれた
★★★★★
高木彬光の長女高木晶子氏が好書『想い出大事箱』で語っているように、彬光は晩年口述筆記にて『乱歩・正史・風太郎』なる随筆を遺す筈だったが、想いは叶わなかった。その遺志を引き継いだのが編者山前譲氏と出版芸術社の原田裕氏。分散していた過去のエッセイを、4つのテーマに分類し1冊で纏めて読めるようにしたのが本書。
高木親子のこの2冊のエッセイ集は重要な戦後日本ミステリ裏面史でもある。
■第1章 産みの親・江戸川乱歩
講談社『乱歩全集』月報、『ぺてん師と空気男』初刊本付録、春陽堂『乱歩全集』月報、「推理小説研究」、「幻影城」、『大衆文学大系』月報、旧角川乱歩文庫6冊解説より。
■第2章 育ての親・横溝正史
「宝石」、春陽堂『日本探偵小説全集』月報、「日本探偵作家クラブ会報」、『横溝正史追憶集』、岩谷書店『鬼火』、「別冊宝石」より。
■第3章 水魚の親 山田風太郎
「宝石」、「信友」、「小説宝石」、旧角川文庫『甲賀忍法帖』解説、「別冊新評」、講談社『山田風太郎全集』月報×15より。
■第4章 推理小説裏ばなし
光文社『高木彬光長篇推理小説全集』月報×17より。
風太郎への歯に衣着せぬ悪友ぶりも痛快だが、ダントツで面白いのが第4章の自伝。私生児という暗い青春、貧苦の中追い詰められた彬光が占い師の啓示にて処女作『刺青殺人事件』を書き、遂に乱歩に認められる件はド゙ラマティック。デビュー後の危機に「少年物」の執筆を薦め、作家の処世術を諭す正史の温容。
300頁あたりで彬光が怒りをぶちまけている作家「O」とは、大坪砂男の事なのだろう。
いつも良い企画を立ててくれる出版芸術社。山前氏よ、今度は横溝正史の未刊随筆・座談集を発売してくれないかしら。
高木彬光が見た推理文壇戦後史
★★★☆☆
ミステリーが好きな人、高木彬光の作品が好きな人なら楽しめること間違いなし。過去に高木彬光があちこちに書いたものをまとめた集大成であり、タイトル通り、江戸川乱歩、横溝正史、山田風太郎らとの作家のつながりや当時の推理文壇の模様が垣間見られ、興味深い。
すれっからしの推理小説ファンには読んだことがあるものが多く物足りないであろうが、第4章「推理小説裏ばなし」では特にそこでしか読めないものが多々あり、そういう意味で推理文壇を紐解く資料としても貴重だと思う。
編者の山前譲氏もまえがきで触れているように、はからずも来年は高木彬光の没後15年という節目でもある。実にタイムリーな本書の刊行である。全ての推理小説愛好家に捧げられるべき書でもある。