この本の指針は、最先端のゲームプログラミングに関する最良の知識を読者に手渡すことであり、それぞれ10ページ以内で紹介されている。これを少ないと侮ってはいけない。ゲーム開発を真剣に考える開発者にとっては大変貴重なものなのだ。
導入部分では、管理が簡単で、動作の速いコーディングテクニックが主となっている。さまざまなテクニックや、データ中心のゲームモジュールに対するスクリプトの利用に関するガイドを読めば、ハンドルの仕様といった、より効率的なリソースの管理方法が理解できる。標準テンプレートライブラリ(STL: Standard Template Library)の速攻入門からは、高速な集合クラスをコーディング中にすぐに使用するための方法を学ぶことができる。本文で紹介されている何人かは、より良いゲームのデバッグとプロファイルに関する攻略方法を紹介している。これには、テスト中に画面にフィードバックを表示できるクラスのセットなどもある。
計算に関して、行列の代わりに四元法を使う方法など、最先端の3-Dグラフィック処理に必要な数学的裏付けについての記述もある(水面の動きのシミュレーションに関する節もある)。また、有限状態マシン(FMS: Finite State Machines)、ファジー理論、およびニューラルネットワークといった人工知能の技術に関する説明もある(ゲームのステップアップを考えている人は、鳥や魚の動作を追加できるという非常にクールなアルゴリズムのセットに特に心惹かれるはずだ)。
3-D仮想空間を表現するための要となるポリゴン処理に関する20以上のテクニックも網羅しており、データ衝突の検知、キーフレームの処理、ゲームキャラクターの肌処理およびフラクタルなどを使ったリアルな地形の生成など、さまざまな重要な概念を学ぶことができる。そして、ピクセルを使ったエフェクトと、現実により近いライティングや影をゲームに加えるための最新の方式に関する記述で、この本は締めくくられる。
しのぎを削る業界でゲーム開発者が駆使するアルゴリズム、その最新のトピックを盛り込んだ本書は、ゲーム業界の関係者すべてにとっての必読の書だ。WindowsとLinuxの両方で実行できるOpenGL向けのコーディング例が紹介されている点でも、この本はゲームのプログラミング技術に磨きをかけたい開発者に役立つ1冊となるだろう。
お勧めは、Miguel Gomezによる"Integrating the Equations of Rigid Body Motion"である。11ページとコンパクトにまとまった剛体力学入門であり、最小の労力で最大の知識が得られる。David Baraffのウェブ公開資料も併用したい。
プロのゲームプログラマがそれぞれの専門分野について、きわめて実践的な内容を惜しげもなく公開しており、一つ一つのトピックスがまさに宝石のような輝きに満ちている。C++のSTLを利用したシステムリソース運用テクニックや、3Dグラフィックスでのスキニング、水面の表現など、具体的な実現方法を解説しているのは日本語の書籍ではこのぐらいしか見当たらない。まさにプロのゲームプログラマを目指す人間なら必携の書籍のさらに筆頭に位置する著だろう。
反面、40人ものプログラマがそれぞれの専門分野について書いているそのことが、この本の弱点にもなってしまっている。それぞれのトピックスは必要に応じて利用するように意図して独立した構成であるため関連性が薄く、高度で有益な内容になればなるほど要求される知識量も飛躍的に高くなり、人によっては副読本なしに読み進むことが困難になることも予想される。しかし、これはこの本の欠点というよりは入門書ばかりでそれ以上の内容をフォローしてこなかったわが国のお寒いゲーム開発書の出版状況によるものであろう。
結論、やる気があるやつは買い。
3D数学の素養に自信のない読者は同じ狩野智英氏の訳による『ゲームプログラミングのための3Dグラフィックス数学』を併読すると理解に大いに役立つだろう。
英語のある程度よめないときついです。