幕末、天領である大阪の町で、文太郎は戯作者としてそこそこ食べています。実家は草紙屋ですが、酒と女遊びがひどく、勘当された身。
ところが、父親の与兵衛は今まで家業よりも執着していた、一枚摺りといわれるかわら版への執着がなくなりつつあるという。奉行所にも目をつけられていた一枚摺りであるが、それはそれで文太郎は寂しさを感じます。
そんなとき、米屋の打ちこわし騒動があり、文太郎はそれを記実にして、店の定吉に持たせます。与兵衛はそれを一枚摺りにしたが、それが元で奉行所に捕縛され、厳しい責めを受け獄死。
文太郎が潜りの一枚摺り屋になり、父親の獄死の真実を暴くべく奔走します。
幕府と長州の戦いや、薩摩、土佐の動きなど幕末の動乱を、一枚摺りに書きとめながら、その一枚摺りを求める庶民や各藩の動きや心理状態をうまく描きます。新聞が人々の生活に根づいていった明治の幕開けを感じさせます。とても躍動感溢れる小説。
なんといっても文太郎がいい。腕は強く、心は優しく、けれど自分の知恵や知識の足りないところは周りの人々に素直に頭を下げる。いい男だねー。
幕末に流行った「ええじゃないか踊り」をうまく取り込み、明るい幕末小説です。