嘘をつくことは、女の子たちのひそかな愉しみ
★★★★☆
紫色のかれんな花と同じ名の「しおん」と、その幼友達の「私」が、台所でお料理をしながらかわす小さな、でもちょっと怖いお話。
しおんは「きわだって孤独できわだって美しく」、でも「ひどい嘘つきの、ちょっと変わった友達」。嘘は「物語」そのもので、「人はほんとじゃない」、ただ物語を「運んでいるだけ」であり、「物語の中で、私は夕闇の川のざくろなの」と答える。ざくろってルビーみたいにきれいだけれど、血まみれの心臓のようにも見えるなあ。「物語の中にしか真実は存在しない」というしおんの言葉に、江國さんの小説観がにじみ出ている。
それで、確かにしおんは嘘つきだけれど、この物語の「私」はどうなのだろう? 二人が昔乗っていた幼稚園の通園バスは、「クリーム色」の花柄の車体で「きみどりの天井」だったはずなのに、最後のほうでは、「水色」の動物柄の車体で「クリーム色の天井」だったと語られている…… 。なんだか背筋がぞくっとさせられた。
守屋恵子さんの絵もインパクトがあるし、西加奈子さんの解説は外伝『夕闇の川のざくろ』になっていて、とても読み応えがあった。お薦めの大人のファンタジーです。