アスファルトに散った栄光と挫折
★★★★★
様々に改造されたセドリックやクラウンが競ったストックカーレースの華やかさ。
それ以上に、青森の下北半島の原野にサーキットが作られ始め、JAFから脱退した団体がフェンスもスタンドも未完成で舗装すらままならないコースで9万人を集める大レースを無事故で成功させた事実。そのドラマが熱い。まるで映画『フィールド オブ ドリームス』だ。
砂混じりの風が吹き付ける僻地に海水浴場と動物園とサーキットを建設したオッサンの野望と挫折、レースを愛するが為に、カネと体面にこだわる天下り団体JAFと確執が深まる日本オートクラブ。参加者はA級ライセンス剥奪というリスクの中、さらにはメンバーのマシンを東京から青森まで下道で陸送する仕事を請け負い参加費を捻出したドライバーまでいる。
全体に漂う粗削りな迫力と男達の熱意に「昭和」の勢いを思う。
結局、たった一度のビッグイベントと幾度かの草レースが行われただけで未完成のまま倒産、廃棄され原野に還りつつある現在のむつ湾スピードウェイ跡地の写真を見ると泣ける。しかし、たしかに輝いた一日があったのだ、という証としてこの本が世に出た意味は深い。