1匹の盲導犬と人々との感動的な絆を描いてベストセラーになり、テレビドラマ化もされた『盲導犬クイールの一生』。だが主人公のクイールを育てた訓練士、多和田悟は、今でも「あのクイールがなあ」という思いが消えないという。
盲導犬の素質は血統が第一だが、家庭犬を母親とするクイールは決して盲導犬になるべくして生まれた犬ではなかった。そんなクイールがどうして、すぐれた盲導犬になることができたのか? 本書は「魔術師」と異名をとる多和田の訓練士としての苦闘を描きながら、クイールをはじめ多くの名盲導犬を世に送り出した「多和田マジック」の秘密を探っている。
日本では盲導犬教育とは犬が訓練士や使用者の指示に無条件で従う「服従訓練」だとされてきた。だが多和田は訓練を「教育」に変えた。彼のもとで育つ犬たちは、訓練を「楽しい」と感じている。自分の意志でいい仕事をしたいと願い、使用者のためになる行動をする。彼らは「いつも尻尾を振りながら楽しそうに仕事をする」という。だからこそ、多和田が育てた盲導犬たちは使用者とハッピーな関係を築くことができる。
訓練を「楽しい」と感じさせ、ほめることで仕事へのやる気を育てる──そんな多和田の姿勢は、盲導犬教育のみならず広く犬と人間の関係を考えるうえで役に立ちそうだ。(栗原紀子)
「盲導犬やる?」「やる!」
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多和田悟さんが育てた盲導犬は、仕事中も楽しげにしっぽを振っていると言う。仕事=厳しい、辛い、大変というイメージを犬が持ってず、心底楽しんで行動しているからだろう。そんな多和田さんの半生記を読んでいると、彼が盲導犬の訓練士になったのは偶然ではなく、なにか大きな見えざる力による必然だったような気がしてならない。
点字本との出会い、目の不自由な牧師さんや友達との交友、初めて目にした盲導犬。金銭的な苦労や訓練法の試行錯誤などを経て、多和田流の訓練が築かれた。常に視覚障がい者の立場に立ち、物事を考えていく姿勢に頭が下がる思いがする。また犬をじっくり観察し、その行動の先を読む多和田さんは「犬と会話ができる」人。人にも犬にも心を砕くことができる素晴らしい人だと思う。
印象的だったのが、盲導犬候補生の犬に「盲導犬、本当にやる?」と聞いたら「やる」と犬が答えたというくだり。人間の言葉ではないけれど多和田さんは確かに犬の答えを聞いたのだ。とても素敵。モノクロですが写真が多く収められています。
極めてお勧め
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盲導犬を育てるカリスマ訓練士である多和田氏。魔術師、犬の気持ちがわかる現代のドリトル先生と絶賛される。本書は自らの手記と、彼のキャリアを描いた記者のルポ。それに犬たちとの写真という構成。訓練士の社会的地位は昔から高くなく、経済的には困窮するが、社会的使命感と家族、特に夫人の理解と協力で、盲導犬の世界に新たな風を吹き込む。犬を仕上げることに血道をあげていた旧来の手法から、犬と人間の関係を重視した独自のシステムを構築する。常にユーザーサイドの視点に立った育成方針と、血統を重視する科学的な手法。犬の適性を見抜き楽しく訓練、仕事させることが秘訣。薄めだが内容の濃い一冊。
家庭犬を飼うにも参考になります
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盲導犬は犬の中の先鋭で一生を自分の意思とは反するものかと誤解していました。書に出てくる犬は実に生き生きして楽しく仕事をこなしている。それも確実に・・何でもいえる事だけど楽しくないと上手く行かない。犬に対する著者の深い洞察力・愛情は十分伝わるし、誰にでも少し気を付けたら出来る事のように思えました。愛玩犬を飼うのだって先祖はやはり狼に違いないのだから
良く犬と自分を見つめて考えて欲しいと感じました。是非一読される事をお勧めします。
久しぶりにすごい人とすごい本
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犬のしつけに悩んで購入したのですが、多和田悟さんの人生に感動しました。しつけ書というより、人生の指導書でした。多和田悟さんの生きざまと、情熱がこのクイール人気を導いたのかな、と、神様の意思を感じました。
また、犬に対しての先入観も随分変わり、その犬の個性を大事にしつつ、ほめてしつける大事さを知りました。うちの犬は1頭目は厳しくしつけすぎて、行儀はいいけど愛想がなくなってしまい、2頭目は、かわいがってほめて育てていますが たいそう時間がかかっています。でも、人間好きで愛想の良い犬です。1頭目も今からでもほめていこうと思っています。
しつけ本よりお薦めです。
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「魔術師」の異名をとる多和田氏の魔術師ぶりに驚くと共に、氏の仕事に対する執念に感銘を受けました。ある種のサクセスストーリーになっていますが、「これだけ金持ちになった」とか「これだけビジネスで成功した」という普通のサクセスストーリーではなく、盲導犬訓練師を通した人間としてのサクセスストーリーとでも言いましょうか。
紆余曲折を経ながら氏が体得した訓練方法は素晴らしいものであり、その精神は盲導犬にとどまらず、家庭犬のしつけにも充分役立つものだと思います。下手なしつけ本を何冊買うよりも、この一冊で充分なくらいの説得力があります。
また、矢貫隆氏の文章もとても読みやすい上に、読者をどんどん惹き込むようなところがあり、その点からも大変質の高い本だと思いました。