この対談集は次の2点で優れている。1つは、通常のインタビューや対談では見られないプライベートなエピソードや個人的な心情が、ストレートに語られているということだ。もう1点は、芸術の本質や音楽と文学の根本の原理について、わかりやすい言葉で議論されているということである。お互いに敬意を抱きあう関係だからこそ、心を開いた自由闊達(かったつ)な対話が可能になったのだろう。長年の経験と思弁に裏づけられた彼らの言葉のひとつひとつには重さがある。
その傑出した才能によって若くして日本を代表する表現者となった2人は、世界を相手に個人として道を開く新しい日本人のモデルとなった。「若わかしく新しい人」とは大江の小澤評だが、この言葉は大江自身にも当てはまる。老年を迎えた彼らは、なおも、若く、新しい。芸術への熱い思いと21世紀を生きる若者たちに向けて夢を語る彼らの言葉は、この本を読む者を励ますだろう。(榎本正樹)