小澤征爾と大江健三郎。活躍する世界は異なるが、1935年の同年に生まれた彼らは、中学3年のときに現在の仕事を目指し、若手芸術家として時代の先端を走り続け、粘り強く仕事を重ね、世界的にもっとも評価される日本人として自らの人生を築き上げてきた、という点で共通している。本書は40年来の友人である彼らが、青春時代、家族、教育、民主主義、音楽と文学、共通の友人武満徹、そして未来について、縦横に語り合った対談集である。
この対談集は次の2点で優れている。1つは、通常のインタビューや対談では見られないプライベートなエピソードや個人的な心情が、ストレートに語られているということだ。もう1点は、芸術の本質や音楽と文学の根本の原理について、わかりやすい言葉で議論されているということである。お互いに敬意を抱きあう関係だからこそ、心を開いた自由闊達(かったつ)な対話が可能になったのだろう。長年の経験と思弁に裏づけられた彼らの言葉のひとつひとつには重さがある。
その傑出した才能によって若くして日本を代表する表現者となった2人は、世界を相手に個人として道を開く新しい日本人のモデルとなった。「若わかしく新しい人」とは大江の小澤評だが、この言葉は大江自身にも当てはまる。老年を迎えた彼らは、なおも、若く、新しい。芸術への熱い思いと21世紀を生きる若者たちに向けて夢を語る彼らの言葉は、この本を読む者を励ますだろう。(榎本正樹)
二人の「巨人」
★★★★☆
大江氏の思想には興味がありながらも、実際著書を読んでもチョット難しい・・
とおもっていたので、
やはりその才能とお人柄で魅力的な小澤氏との対談集は、うれしかったです。
お二人を取り巻く人たち、文学論、音楽論、そして
ご両人の子どもさんの話もあり、身近に読めました。
深い思索と社会への鋭い視点を持ちつつもユーモアを欠かさない大江氏ですが、
ご自身のことで、ともすれば現実を生きてゆくことに困難を感じられることがあっても、
(自殺という言葉が氏の口から数度出てきています、名だたる作家にはなぜか多いですよね・・)
自閉症をもつ作曲家のご子息、光さんの存在があるからこそ
父親としての命を大切にされているのだと・・。
小澤氏は、対談の文章量にしてみれば少ないのですが、
大らかな魅力で大江氏との対談を楽しんでおられるようでした。
やはり気になったのは、小澤氏の教育で、
子どもは、だれの子どもとして生まれて、
人間としていちばんだいじなとき(10歳くらいまで)を
「どこで」育つかが大事だとおもっておられるので、周囲の批判を受けても
子どもさんは、やむなく親と離れた日本で育てた、というところ。
私はクラッシックには詳しくありませんが、
小澤氏の大陸的な器の大きさと日本人の感性の融合したところを
とても魅力的におもっていますので、
ここは本文中文章的には言葉足らずにもみえますが、
この直感はさすがだとおもいました。
小澤氏の方は、音楽家なので、この本の文章を読んだだけでは物足りず、
この対談で出てくるマーラーの演奏など聴いてみたくなしました!
かっこいいおっちゃん
★★★★★
表紙の写真がまたかっこいいです。
世界で大活躍のお二人の考えや、若い世代へのメッセージが
たくさん載っています。
具体的な言葉はズシンと心に響きます。
お二人とも中学生の時にやりたいこと(文学と音楽)が見つかったとか。
日本人はすごいです。
ユーモアは人生にひそむ天使の透かし
★★★★★
刺激に満ちた対話。やはり特別な個性を培って来た大人の繊細な会話は気持ちよい。
ここでも多くの人が書かれているから、その内容の深さはおまかせして、ふたりの、とくに大江さんのユーモアの楽しさもたくさん溢れていてたのしいです。
一例をひとつ。
大江: 僕の家内は、僕の友だちの伊丹十三の妹でしたが、僕が彼女と結婚したのはね、伊丹君は天才的な男ですが、実社会ではうまく生きていけないだろうと、妹は代りに僕が引き受けてやろうと、ゴーマンなことを高校生が考えたわけですね。
小澤: ああ・・・。
大江: 実際にはいろいろあって、やっと結婚してもらったんですが、結婚してから一年半くらいは僕の話は八割り方分からなかったそうです。
小澤: ・・・(笑)
大江: こちらは、なにか謎を秘めたような感じの彼女の対応を、美しいと思ってたんですが。
小澤: アッハハハ。
大江: そういう幸福な誤解ってあるもんですね(笑)。
世界にはばたく先輩
★★★★☆
世界にその名を轟かす二名。
両者に共通するのは、生まれた年だけではなく、今の仕事の志を決めたのは中学校3年の時だった。
本書では、同じ年に生まれ、それぞれのライフワークである文学、音楽を通じて対談をしている。
全ての生活には科学が根本にあって、動機づけが行われる。
二人の対談は、政治、日本、教育、人間性などに話がおよぶ。
日本を代表する両名の書籍はおもしろいですよ。
世界へはばたいた二人
★★★★★
昭和10年世代。幼少時代に戦時教育を叩き込まれ、戦争に行くには幼すぎ、戦後の180度の政策転換を感じるには十分若い感性を持っていた世代である。
同じ年に生まれ時代を共有できる友人、ジャンルを超えてライバルもしくはお互いが目標となったり刺激をうけたりする相手がいるというのは大切だと思う。
日本を代表する二人の芸術家の対談は非常に面白いものだった。
音楽でいう、作曲家と演奏者(楽器)の関係が、文学だと作家と読み手、読み手の中に楽器があるなら、よい楽器を演奏でくるような優れた読み手になりたいと思った。