源氏物語と猫
★★★☆☆
2003年に出た単行本の文庫化。
本書は第13回鮎川哲也賞の受賞作。
源氏物語をテーマとした2本の中篇+αが収められている。
初めの1本は、猫の失踪を謎としたもの。事件ともいえないほどの事件だが、登場人物の可愛らしさで読ませるタイプ。ただ、この結末はどうか。
2本目は、源氏物語にあったかも知れない「幻の巻」を描いたもの。けっこう考証がきちんとされていて説得的だし、物語としての工夫もある。しかし、源氏物語に関心の高い読者でないと興味が続かないかも知れない。
意欲的な作品であり、切り口も面白いが、源氏物語が好きな人でないと厳しいだろう。
続編『七姫幻想』がある。
創元推理文庫らしい快作
★★★★★
紫式部を探偵役にした日常の謎作品です。中編の分量の作品が二作、後日譚が一作の2.5部構成。ちょっと格調高い感じと伏線の張り方が「ああ、創元ごのみだなあ」と思わせます。
当時、宮中に猫が参内していたことは有名ですが、その猫が失踪したという事件が第一部、源氏物語を献上したところ原稿の一部が失われしまったという事件が第二部。王朝ものというと難しそうですが、当時の生活・風習はともかく、探偵役とワトソン役二人に現代的な性格が与えられていて、するすると読めます。ライバルたる清少納言もおっかないおばさんとして登場(とはいえ、オニババにとどまらない所がまたいいのです)。
この作品は、蓮っ葉な猫好きとして登場したワトソンが育っていく「女の愛と生涯」を描いた作品としても読めますし、「第二の性」に属する紫式部が「作家性」に目覚める過程を描いた作品としても読めます。また、日常の謎の背景には当時の権力抗争があり、弱い立場に立たされた女性や部下たちが自分を守っていこうとする物語ともなっており、単なるほんわか推理に留まらない作品に仕上がっています。
謎は源氏物語の中に
★★★★☆
源氏物語や平安時代の貴族についての知識があるほど、面白みが深まる小説。知らなくても面白いが、知っているほうが面白い。
のちに紫式部と呼ばれる女性を主人にいただく「あてき」という名の少女が最初の主人公だ。
けして大貴族ではない、大貴族に仕える中貴族の家の中から「上にさぶらふ御猫」は始まる
「かがやく日の宮」はそれから数年、幻の第二帖をめぐる物語。そして、その結末をつける「雲隠」。
物語の比重は徐々にあてきから紫式部本人へと移り、源氏物語そのものの成立であったことを最後に思わせられる。
書いたものを手放さなくてはならない、作り手の不安と覚悟がひしひしと伝わる。歴史上の記録を踏まえつつ、時代を超えて人々が生き生きと浮かび上がってくるところが面白い。
個人的には、謎解きよりも、少女たちの成長、女性の生き方を楽しんだ。特に、あてきと岩丸の初々しい恋のあたりが魅力的。
物語の姫君にはない生き様を、物語の中で少女たちが選んでいく。選ぶ自由があったのは、妃がねとなるような大貴族の姫君ではなかった。
メイキング オブ 源氏物語
★★★★☆
源氏物語はマンガでしか読んだことがないし、「かかやく日の宮」という幻の巻のことについても知らなかったけど、興味深く読めました。個人的には前半の帝ご寵愛の猫が消えるという「上にさぶらふ御猫」の話が好きです。
紫式部に仕える少女「あてき」の恋。その片思いの相手「岩丸」少年の高貴な人へのかなわぬ恋。それから時の権力者「藤原道長」の陰謀。これらが猫消失の事件と絡む。
「あてき」や「岩丸」がこの事件をきっかけに、子供時代に終わりを告げ旅立っていく感じがほろ苦くせつなくて、そこがなんとなく好きです。
紫式部探偵もなかなか面白い
★★★★☆
『源氏物語』と関わるミステリーとしては、岡田鯱彦『薫大将と匂の宮』(扶桑社文庫)、長尾誠夫『源氏物語人殺し絵巻』(文春文庫)が有名ですが、この本の収録作品「かかやく日の宮」は、『源氏物語』の成立論とかかわる点で上記2作品とは趣を異にします。『源氏物語』成立論に関する予備知識がないと、読むのはちょいときびしいかもしれませんが、多少とも知識があれば面白く読めます。実在の人物の描き方も無理はないし、道長や彰子など魅力的に書かれています。紫式部が探偵というのも納得できます。