言葉に対する真摯な姿勢が伝わってくる
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「沈黙博物館」では、主人公の青年の数少ない持ち物に、「アンネの日記」が入っていたことがいつまでも忘れられない。それほど作者が入れ込んでいるアンネの足跡を辿る旅が、慎重に選ばれた言葉で、丁寧に大切に描かれてゆく。アンネゆかりの品や場所、人々との出会いには、こちらの神経までぴりぴりと刺されるような、痛いほどの緊張感があふれている。
なかでも感動したのはアウシュヴッツを訪ねた直後のタクシーで、小川さんが空腹を感じてチョコをほおばったというくだり。そこに、この作家の懐の大きさと力量を見たように思った。