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マラコット深海 (創元SF文庫)

価格: ¥378
カテゴリ: 文庫
ブランド: 東京創元社
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マラコット博士が登場する唯一の作品 ★★★★☆
ドイルの長編の中では最末期に属する1929年に発表されたSF作品です。マラコット博士をリーダーとする探検隊が海底を探検し、アトランティス大陸が海底に沈んだ後、海底で独自の文化を築き上げているのを発見するという物語。マラコット博士はチャレンジャー教授とほぼ同じ人物造形で、なぜ本作だけわざわざ別の人物を持ち出したのかはよくわかりません。

失われていた大陸が海底で存続していたという設定は、現代の感覚ではかなり陳腐ですが、ドイルは海底の建物や海底生物の描写に独自性を出すことによって生き生きとした世界を作ることに成功しています。石ノ森章太郎『サイボーグ007』の海の底編は本作を意識して描かれたものではないでしょうか。
潜航函がいい・・・。 ★★★★☆
いかにも古典的海洋SFのアイデアだが、これまた夢がある作品。ムチャなんだけど、完全に嘘臭い所が、逆に面白かった。最近のSF物は本当に、理屈っぽくて難解なものが多すぎるから、かえって昔の古典作の方が気楽に読めて良い感じがするな。まあ、今じゃサイバーパンクSFみたいなのが普通だし、古典風の作品を出しても時代に合わないから無理だろうけど・・・。50〜80年代の作品を、再販してもらいたいな。
ドイルの古典SF ★★★★☆
 コナン・ドイルというと「シャーロック・ホームズ」なのだけど、いくつかのSF、冒険小説も残している。実は、彼はこちらの方を優先したかった。しかし、あまりの人気のために、ライへンバッハの谷底に葬ったホームズを、余儀なく生き返らせるのだった。もともとあまり好きでない仕事なためか、復活後の創作には相当な苦労を要したという。そんなドイルにとって、SF、冒険小説は、好きなテーマに没入できる何よりの息抜きだったのだと思う。 
 

 「マラコット深海」は、ドイル最後の小説。マラコット博士に率いられた、海洋学者へドリー、機械工スキャンランが、潜水“箱”に乗り込み、未知の深海に旅立つ。ところが、途上、事故で沈んでしまい、そこで遭遇したアトランティスの末裔たちに救い出される・・。1世紀近く昔のSFながら、道具立は古びていない。水中で呼吸ができ、海水から食料を合成する機械、思念を映像化する装置、水素より軽いレヴィゲン・ガス・・etc。今の創作に与えている影響(古くは「ドラえもん」など・・)も多分にうかがえ、とても興味深い。むしろ、19世紀を生きた作家のイマジネーションに、かなり驚かされてしまう。
 

 研究の鬼だけど、味わい深い人間味も見せる老教授マラコット、それゆえ彼に手を焼きながら付いて行くへドリー。そして、二人だけで行かせては男の名折とばかり、“棺桶”に勇んで乗り込む好漢スキャンラン。登場人物は非常に魅力的。怠惰に生きるアトランティスの人たちとの対比、徐々に溶け込んでいく様がとても生き生きと描かれている。(とりわけスキャンランは、ドイル作品には珍しい口八丁で陽気な人物)アトランティスの女性、モウナとへドリーをめぐる恋愛描写も、いかにもドイル好みの秘めやかなロマンス。
 

 クライマックス、物語はユートピア譚から、ドイルが晩年のめり込んでいた心霊・オカルトの世界へ。全能の邪神、“黒面魔王”バール・シーパと、マラコット博士の息詰まる一騎打ち。初めて読んだ時は、洗練されたSFに、得体の知れない何かが割り込むダイナミックな展開に、驚き、興奮したもの。今でも、エンタティメントというと、この作品がまず思い出されてしまう。