映像と脚本が素晴らしい
★★★★★
幼少時の両親によるトラウマにより、普通に人を愛すことができない三姉妹の話。ロシア人作家の本か何かを映画化したそうだが、脚本は大変素晴らしい。キャストも豪華で、三姉妹を演じるのは、エマニュエル・ベアール、マリー・ジランそしてカリン・ヴィアール。母親役にはキャロル・ブーケ。哀れな役を演じており、しかもノーメイクというベアールが見れるのはかなり珍しい。最近見たベアールでは演技は一番いい。3人の中でジランがいまいち演技の幅が狭く感じた。彼女のどの映画を見ても同じように見えてしまうから。
原題では「地獄」ということで、かなり三姉妹は悲惨な運命を背負い込んでいるのだが、地獄とまではいえないだろうと少々違和感を感じた。この映画の場合むしろ、邦題から「美しき」をとった「運命の傷跡」っていうのがタイトルとしてしっくりくる。しかし、映画終盤で三姉妹が母親のもとに向かい、母の書いた言葉で映画は締めくくるのだが、その言葉に、なるほど確かに「美しき」を付け加えたくなるほどの完璧な悲劇であること実感する。否、それが三姉妹にとっての「地獄」なのかもしれない。
カンヌ国際映画祭なら、カメラ・ドール賞を捧げたくなるぐらいにカメラワークが良かった。それぞれの状況下で映し出される三姉妹の体のパーツ、角度、そして色あい。アパートの窓から見下ろすシーン、あるいは下から見上げるシーン、といった高低差を利用したカメラワーク。ガラス越しの女の表情。そして度重なる顔のアップ。などなど、なんだかロシア映画を感じさせてくれるものばかりだが、そうしたものから、三姉妹の、やりばのない怒り、嫉妬、悲しみの深淵などが見え隠れする。ジュリエット・ビノッシュも出演していた三部作「トリコロールカラー青・白・赤」を彷彿とさせてくれた。とにかくカメラはパーフェクト。なめらかな話の展開にも見ている時間をすっかり忘れさせてくれた。 90点。
近いのは『北斗の拳』かも
★★★☆☆
個性的な女優3人が、浮気される妻、孤独な女、不倫に走る女というバラバラでありながら、元を辿れば「ある出来事」に集約される傷を負った三姉妹を演じております。そして、理屈では、または「偶然」という概念では説明できない「運命」というものを軸に、3人の物語がグルグルと回り始めます。
あらすじをざっと説明した感じだと、「運命は自分で切り開く」とばかりに成長を遂げるだけのありがちな映画と思ってしまうのではないでしょうか。私も途中までそう思ってましたし、物語も確実にその方向に進んでいました。
しかし、それは未だ微風でかき消されそうな灯火の段階のまま、物語は「鶴の一声」を炸裂させて急速に幕を閉じます。そして、劇中何度も登場した螺旋のようにカメラは回転し、その遠心力でこれまでのストーリーを吹き飛ばしてしまいました。
そして思うに至るんです。「運命から簡単に逃れられると思うなよ」と。あなおそろしや、運命至上主義、です。
ですから、彼女たちの選択は一見力強そうに見える一方で、運命の大いなる力に支配されているだけと捉えざるを得ないのです。この映画の狙いは運命という神の力を知らしめるという宗教的な部分にあって、他のフェミニンなおフランス映画とは一線を画しております。近いものを探すとなると、「北斗の拳」になりかねません(笑)。
愛の地獄
★★★★☆
2人のベロニカ』を思わせるセピアローズの色調が印象的なこの作品は、キェシェロフスキの遺稿(『天国』『地獄』『煉獄』三部作の二作目にあたる『地獄』篇)を映像化しているそうだ。(『美しき諍い女』を意識したベタな邦題はいただけませんなぁ)
口のきけない母親(キャロル・ブーケ)の看病を続ける愛に臆病な長女セリーヌ(カリン・ヴィアール)、夫の浮気に悩まされる愛を疑う次女ソフィ(エマニュエル・ベアール)、年齢の離れた妻子ある大学教授に恋心を抱く愛に飢えた三女アンヌ(マリー・ジラン)。幼少期に父と母の間に起きたある事件にトラウマを持ち続ける3姉妹が、まるで一家に起きた不幸な悲劇をなぞるように<愛の地獄>へと導かれていく。
浮気をした夫への復讐のためわが子を手にかける<王女メディア>に重ねられる母親が、精神的な死へと娘たちを追い込んでいった悪女として描かれ、白髪&ノーメイクで役作りをしたキャロル・ブーケが存在感ある演技を見せている。そして次女ソフィを演じたベアールはいつもながらにアンニュイでしかもセクシー。冒頭シーンの謎とサスペンスタッチのBGMによって、ホワイダニットなミステリーとしても楽しめる内容になっている。
<意味のある不幸は運命である>と説く大学教授に教わった3女アンナは<神を信じない現代人は不幸を演じているだけ>と試験官に回答する。3人姉妹それぞれに訪れた不幸は、偶然だったのか、それとも運命だったのか。父親に抱いていた疑惑が誤解であることが判明し、それに対し<後悔はしていない>と答える母親。自分たちに訪れた不幸が、神を信じないこの母親によってもたらされた運命であったことを、3姉妹たちはこの瞬間悟ったのだろうか。
原題は「l'enfer(地獄)」
★★★★☆
メロドラマな印象を与える邦題より、原題の方がしっくりくる映画です。
さて、あらすじですが、キェシロフスキが「地獄」編として構想した物語だけあって、いいことが一つもない、サスペンス一歩手前のまさに悲劇の物語。
愛に不器用な三姉妹の織り成すそれぞれの愛の末路、そしてそれを運命付けた家族の不幸な“事件”。ただ、単純な「幼少期の悲劇とトラウマと、運命のように再び再生する悲劇」の物語で終わる訳ではありません。
彼女らが王女メディアに自らをなぞらえ、愛の名の下に互いを傷つけ、そして裏切られる様を客観視する強さを持っていることが、この物語に救いを与えます。
あと、マリー=ジランはけっこうな年のわりに(三十路のはずなんだけど・・?)多感な女子大生役をちゃんとこなしてますし、エマニュエル=べアールはいい感じで「油の抜けた」魅力を発揮してます。