お薦めの1冊
★★★★☆
企業はあらゆる環境問題に対して費用対効果を考えながら何らかの対策を行っている。しかし、その対策にいくらを費やしたのか(具体的に)、将来にいくら必要なのかの情報は一般に開示されない。そんななか、資産除去債務に関する会計基準が平成22年度から適用される。
これは土壌汚染やアスベスト、PCBなど法律で規定されている浄化債務(費用)を財務諸表に計上しなければならない、とするものである。
この本は、上記の環境債務(厳密には、汚染物質浄化費用)をどのように会計処理すればよいのかを説明している。会計だけでなく、法律や保険などの分野にも言及している。残念なのは、会計理論の観点からの検討が物足りないことである。ともあれ、現在、環境債務を全体的に扱っている本は数少ないが、お薦めの1冊である。とくに、公認会計士や税理士試験に挑戦する人、大学院に進学する人には是非読んで欲しい本である。
資産除去債務の適用を控え全体像を網羅的に解説
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2010年度から資産除去債務の適用が国内でも始まるが,どこまでを範囲にするかなど課題は多い.現行の法的な要求のみの汚染除去の範囲のみとすべきという解説もあれば,将来的には発生の可能性が高ければカウントすべきという意見もある.
本書は,米国の実例,不動産取引における環境債務の存在,先行した日米の企業の実例など,資産除去債務の全体像を網羅的に解説している.現在のところ,環境債務についての唯一の単行本だろう.更に,PCB処理,アスベスト対策,土壌汚染除去の実務についても解説しており,環境について知りたい制度会計関係者にも役立つだろう.
中でも課題になるのは土壌汚染であろう.資産に対する汚染除去債務も,土対法など規制が変われば債務も変わるのかという難しい問題をはらんでいる.債務の確定までの作業時間が1年余りとなっているが,全体像を把握し,早目の対応が必要である.
環境債務の決定版的参考書
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編著者の藤井良広氏はもともと日本経済新聞のジャーナリストから転じて
現在は上智大学大学院地球環境学研究科の教授である。
同氏がプロタクティブなのはつとに有名であるが、金融政策、銀行の経営戦略、
EUと幅広いテーマでの著作は枚挙にいとまがない。
現在旬のテーマは環境と金融。すでに岩波書店から「金融で解く地球環境」を
だしておられる。
本書は、わが国では早くから同氏が警鐘を鳴らし来られた「環境債務」に
関する総合的解説書であり、分野の専門家10名とともにこのテーマを多角的に
解説している。
環境債務は新しいテーマでもあり、情報収集が難しかった。ネット検索では断片的
情報は得られても、「最新」かつ「専門的」情報は得難い。
そんなニーズを満たして余りあるのが、本書である。決して、学術的研究書ではなく、
平易かつ図表やコラムもふんだんに入っているので、実務家にはぴったりだ。
環境と金融、環境債務会計、土壌汚染リスク等々、これに関連するテーマに関心の
ある向きには、手元に置く価値のある参考書として推奨したい。
周辺分野の最新内容も網羅した包括的な実務書
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日本の会計基準でも規定されることになった環境債務や資産除去債務とその周辺に位置する事項について、この分野の第一人者が分担執筆した本です。以下のような内容が環境債務に関連する周辺分野も含めて網羅的にまとめられています。
・環境債務の背景や概要
・日本・米国・および国際会計基準での規定事項や運用
・実際の企業の算出事例
・不動産のファンド化、環境保険、環境会計と財務会計、CO2排出量取引などの関連事項
説明の図表も見やすくわかりやすいです。具体的でリアルな実情や現状の課題も語られています。
この本を読んで、環境と経済の関係に関する興味が深まりました。特に今後、地球や地域の環境問題が企業の活動にどのような影響や制約条件を与えるのかが見えてきました。環境債務の話は、日本ではスタートしたばかりのため、関連情報や事例が今まで十分探せませんでした。財務会計上での扱い方や、金融商品を利用したリスクの分離の手法などは、本書を利用しないとなかなか話が進まないと思いました。環境債務については、現在本書以外に類書がありませんが、これ一冊あれば実務を進めるにあたって問題はないと思います。一般企業の財務・環境担当者や不動産・金融関連の方々におすすめできる一冊です。