不遇の人
★★★★★
「女性ジャズボーカルと言えば?」というアンケートで、彼女の名前が出てくるのは何番目くらいでしょうか。実力は申し分ないのに、作品数はキャリアと比べて多いとは言えず、知名度ははっきりと低いです。その理由はおそらく、ジャズの黄金期に十分活躍できなかったことにあります。
彼女がMercuryから『Hot Cargo』(名盤!)でソロシンガーとしてデビューしたのは1958年です。翌年にはDown Beat誌で新人賞も取り、さあここからスター街道に、というところでした。しかし、あっという間に時代は60年代に突入して、アメリカではジャズの仕事が激減。しかたなくロンドンに渡った彼女のことを、アメリカのショービズ界は忘れてしまうのです。
前置きが長くなりましたが、有名じゃないから大したことない、というのは彼女に関しては間違いだということです。このコンピレーションは、彼女が1976年にConcord Jazz Festivalでアメリカ再デビューを果たしてからの作品を集めたもの。いまや入手困難(高い)な、傑作"Live from Concord to London"(1977年)からも4曲入ってお得感があります。
彼女の特徴は、なんといっても深くスモーキーな声。抜群のスイング感と声量も魅力です。1."My Romance"で、いきなり彼女のトリコになるでしょう。必聴。本当はオリジナルアルバムを復刻してほしいところですが、free soulシリーズの挑戦的な仕事に五つ星。