ミュージシャン/プロデューサとして成熟したアルバム
★★★★★
世界で最も有名なDJとしてのポール。「ダンスフロアでみんなが聴いているのはリズムじゃなくて、本当はメロディなんだ」「DJは楽器を弾いていなくたって、ミュージシャンと何も変わりはしない」という彼の言葉を裏付けるように、ソングライター/プロデューサとしての彼が世に放ったのが『bunkka』(2002)だったと思う。ゲストボーカルを多数フィーチャーする一方、おそらくDJ時代に思い描いていたサウンド・アイデアを具体化したその内容は、驚きを持って迎えられた。しかし彼のリミックスワークに長い間慣れ親しんでいた自分には、すべてがダンスフロアライクな直球型ではなく、どちらかというと変化球の多彩さで勝負した内容だったところに、わずかに不満を感じた。
あれから4年、とうとうダンスフロアを直撃するアルバムが届けられたと感極まっている自分がいる。丸ごとアッパーなビートが詰まったポールの職人芸とも言うべきリズムアレンジの中にも、ソングライターとしてのセンスが冴える、稀に見るポップなダンス・アルバムが完成した。伝説のDJグランド・マスター・フラッシュとの共演にしても、持ち前のスピード感を崩さず互角にビートとスクラッチのバトルを繰り広げている。圧巻はトラック9。「最後のトランス」とのタイトルが示す通り、世界の終わりの日でもこの曲が流れればまたその次の日から生きていけそうな恍惚とした太陽のような明るさは、これからどれだけダンスフロアを照らすことだろうか。
2003年に来日した彼がフロアに向けて手を合わせてお辞儀をしていたのが印象的だった。それはクラウドに向けた感謝だったのだろうが、まるでフロアに神を見ているようだった。フロアから受けたエネルギーを蓄えて、ポールはまた素晴らしい楽曲群をドロップしてくれた。