Remembering Tomorrow当時,登り調子のキューン
★★★★☆
1995年3月録音。こののち飄々とした左手のトレモロで好々爺に化けていくキューンが,ECMへの復帰を遂げた作品として評判を呼び,ターニングポイントとなった【リメンバリング・トゥモロウ】の裏盤的な一枚である。かつて,エレベに転向したことで疎遠になったスティーヴ・スワロウと,余人を挟まぬ二重奏。彼なりに過去へのけじめを付けておきたかったのかも知れぬ。
スワロウのエレキベースに抵抗感を覚える方も多いと思うが,そのソロはまるでアコースティック・ギターのよう。聴くにつけ,低音請負業としてのベースの限界を超えるべく,彼なりに考えた末の選択であったろうことは容易に察しが付く。【アンダーカレント】あたりをイメージしていたのか。そんな形の交歓も可能になったぶん,齢を経てお互い丸くなったのかも知れない。
キューンとスワロウは,ともに美しいオリジナルを書く隠れた名作曲家。愛奏曲であるミシェル・コロンビエの【エマニュエル】を除く全曲が,双方のオリジナルという点は,本盤の価値を高めていよう。内容も,当意即妙なソロの応酬というよりは,淡々と互いの美メロを合奏することに徹した印象。それを気まずい空気と聴くか,あゝ仕事師よと聴くかで,本盤の評価は分かれよう。オウルらしい凛とした集音も好印象。