「科学技術ジャーナリスト養成プログラム」(早大)のセミナー・講演を中心にまとめた本
★★★☆☆
文科省科学技術振興調整費で2005年度から5年間、「科学技術ジャーナリスト養成プログラム」(早稲田大学・修士課程)が設置されました。本書はこのプログラムで開催されたセミナーや講演から「社会の中の科学技術」というコンセプトで抜粋した11の講演の記録と、座談会、インタビューの13章で構成されます。これより、各章は全く独立した読み物となっていますが、ある程度、共通するのは科学技術ジャーナリストを目指す者として身に着けて欲しい基本的な知識について触れられていることです。
米国の科学技術関係の報道は各分野の専門知識を持つ厚い人材によって行われているのに対し、日本の科学技術関係の報道は専門知識を持たない小数の人材によって行われているのはマスメディア関係者であればよく知るところです。しばしば「国民が求める『素人の視点』」というエクスキューズが当事者から出されますが、これでは客観報道からは程遠い、興味本位の報道しか流れないことになります。本書のいくつかの章でマスメディアに対して厳しい批判がなされていますが、経営環境の厳しい中で状況の改善はと考えると、憂鬱な気分になります。
『ジャーナリズムは科学技術とどう向き合うか』(2009年4月、東京電機大学出版局)が本書と同時に発行されましたが、本書の収録の章のみでは講演録的で散漫な印象は否めません。科学技術と社会をつなぐマスメディアという存在について突っ込んだ章が欲しかったところです。
科学・技術ジャーナリズムの境界
★★★★★
2000年にノーベル化学賞を受賞した白川英樹教授は、受賞当時、大手マスコミの記者ですら、
授賞式の晩餐会のメニューや伝統行事であるカエル跳びをどう行うかなどの全く本質的でない質問ばかりで、
我が国の科学ジャーナリズムの水準の低さに辟易を感じたという。
ジャーナリストそのものの知識水準の低さという問題は論外であるが、根本的には、情報媒体としての収益を追うためには、
「非専門家」である一般人に対しては、ある程度のポピュリズムに走らなければならない、という問題がある。
いかにイエロージャーナリズムに陥らず、かつ刺激的であり続けるか。この境界をどうとっていくか、
がマスコミの永遠の課題であり、本著はその重要性を改めて気づかせてくれる。