周防正行監督が10年のブランクを経て完成させ、これまでの作風を一変させた社会派の1作。電車内で痴漢の容疑をかけられた青年が、無実を訴え続けるも、証拠不十分のために起訴されて裁判で闘い続けることになる。監督が痴漢冤罪事件を取材して練り上げた物語だけあって、細部まで綿密にリアルな展開。これまでの裁判映画では描ききれなかったシーンがいくつも登場し、最後まで観る者を惹きつけて離さない作りになっている。
留置場での日常は、経験していない人には驚きの連続だが、最もショックなのは「疑わしき者は有罪」という警察や裁判所側の姿勢。取り調べでの自白強要はともかく、冷静に判断しそうになった裁判官が急に左遷されてしまうエピソードが強烈だ。被告人の青年役を演じる加瀬亮を中心に、キャスト陣もそれぞれの役を好演。電車内での痴漢に関わらず、ちょっとした運命によって、その後の人生が一変してしまう怖さは、本作を観た人すべてが感じるはずだ。(斉藤博昭)
ATG亡き後、社会派を名乗れる数少ない作品では
★★★★★
よくわからない芸術映画は今でもあります。
60年代末のプロテストフォークのような
映画はとんと消えました。
しかしこの一本が新たな地平を開きました。
硬派な主題をかかげても、ぐいぐい
引き込まれるような作品が可能だということを。
商業主義に背を向けずとも、バリバリの
社会派映画でができることを。
こういうのが観たかった
★★★★★
周防監督は、声を荒げるでもなく、押しつけるでもなく、まるで手のひらに「現実」をのせてそっと差し出してくれたかのようです。
映画は「間違っていることがあります」と、静かにわかりやすく訴えています。
法律…なんで誰にでもわかる言葉にしないんだろう。
取調べ…なんで言った言わないにならないよう全部録画とかしないんだろう。
裁判…なんで有罪率が高いことが軽視されるんだろう。
役人…なんで公務につく人が勤務評定に左右されてんだろう。
まだまだあるけど、そんな疑問が次々と湧き、いったい裁判て何のための制度なの?と胸が痛くなりました。
でも絶望的ではありません。
人とのつながり、協力者、正義を理解し実行しようとする人達もいます。
静かな闇にもちらほらと光が見え隠れしています。
犯罪も冤罪もこの世から無くならないなら、その光だけは見失わないでいたい。
そう思えた映画でした。
監督に、素晴らしい映画をありがとうと言いたいです。
法務省推薦教材にすべき
★★★★★
日本の刑事裁判の問題点が遍く描写されている。
刑事訴訟法上は、無罪推定がなされるにもかかわらず、警察官・検察官・そして裁判官までもが、最初から被疑者または被告人を有罪と決めつけている。そしてまた彼らは善良な市民に対して非常に高圧的である。自分が何様だと思っているのか。
こういう輩たちに多額の税金が支払われることを考えると、はらわたが煮えくり返る思いである。
警察の捜査は杜撰でかつ客観的な証拠には見向きもせず自白だけを採りにいく。検察は自分に都合のよいものしか証拠開示しない。あるはずの証拠は不見当となる。さらに検察は警察と同じく恫喝する。
裁判所は裁判所で、「被害者は被告人と関係がないから被告人を陥れる理由がない」(犯罪被害者と冤罪被害者は、たいていの場合無関係です。)、「被害者の証言は具体的かつ詳細」(具体的かつ詳細な嘘などいくらでもあります。員面調書や検面調書がその典型例です。)などの社会常識のある人ならおよそ信じられない理由で堂々と有罪にしてしまう。
刑事訴訟法では、被告人が犯罪を行ったことを合理的な疑いを超える程度に証明しなければならないこととなっているが、実態は全く異なっている。つまり、日本は司法後進国どころか弾圧国家なのである。
このDVDは、日本の司法の実態を勉強するのには最適であるので、是非、法務省推薦教材にして司法教育の現場に用いてもらいたい。
将来の日本の司法を担う人には、このDVDを観賞してもらい、現在跋扈している弾圧警察官、弾圧検察官、弾圧裁判官を反面教師として、真っ当に育ってもらいたいと切に願うばかりである。
偏ってる映画
★☆☆☆☆
冤罪から主人公を救うために奮闘する弁護士。
冤罪だということを全く理解しようとしない検事。
主人公達の主張をほとんど聞かない裁判官。
この構造はステレオタイプすぎるし、何より問題なのは映画で描かれているようなことが無いとは言わないが全ての刑事裁判がこの映画のようにおかしいものであると印象付ける映画の作りは考えが偏ってる気がする。
特典ディスクはお勧めです。
★★★★★
私達一般人が裁判に参加するいわゆる「裁判員裁判」開始を来年5月に控えて「痴漢冤罪事件」というメッセージ性の強い題材を今、映像化したことはとても意義のあることだと思います。
余計なものは一切拝して脚本と役者、リアルなセットだけで勝負!という感じも伝わってきます。
映画といえば音楽と言えるほど背景に流れる音楽は映画にとって重要ですが、本作ではほとんどそれがなく、徹底してストーリーを追っていきます。
音楽の重要性を否定はしませんが、本作においては物語に引き込まれる一因になっているのではないでしょうか。
また演出やカメラワークも凝ったところがなく、それが「これを伝えたいんだ!」という明確な監督の意思表示にも感じられました。
なんの変哲もないただの日常を過ごしていただけなのに裁判沙汰に巻き込まれてしまう、特に男性には起こりうることです。
その「身近な恐怖」を感じました。
この「スペシャル・エディション」では特典ディスクと「刑法・刑事訴訟法ハンドブック」が付いています。
特典ディスクではアメリカ人レポーターが痴漢の実態を探るべく東京を歩きますが、それによると痴漢は日本特有の犯罪で痴漢を表す英語は存在しないようです。
メイキング「周防正行、裁判を撮る」では周防監督の本作への意気込みが感じられて興味深い内容になっています。
また「周防正行日本あっちこっち」では160分にもわたる周防監督の密着ドキュメンタリーが観られるのでファンの方には「スペシャル・エディション」をお勧めします。