底抜けの明るさに脱帽
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北杜夫ファンが読むのに、この人及び周辺の周知的紹介は不要だろう。一途にこの本の中の耳寄りの記事を取り出して、八十路を祝いたいのである。
老人となって子供がえりをした。俗にいう子供がえりと、たまたま躁病の気配となって、世人の二倍の子供がえりをしたという。
いざ茂吉の故郷、というよりも上山競馬場へ。五万円使い果たし、帰りは「老衰と腰痛と競馬に費したエネルギーのため、もはや息も絶え絶えに杖にすがって立っていた。ただ徒に呆然と立ちつくしていた」と書いている。北流独特の誇張表現だろうが、あれから何十年も経つので、年相応かもしれない。
なにはともあれ、この作家の楽天的な明るさ、ユーモア精神は老いてなお健在だ。
「こんなけなげな日本人男性そこら近所にやたらめったらいるもんじゃあない」と言ってのける底抜けの明るさはどうだろう。
まだまだ
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北杜夫の書いたものは、小説はもとより、エッセイ、評論、バカ話等々何でも読んできたが、その文章の美味さはまったく変わりなく、今でも安心して読めるので嬉しい限りである。
「北杜夫」ファミリーといおうか、「斎藤茂吉」ファミリーといおうか、とかくこのファミリーほど日本人に知れ渡っている一族はない。父親斎藤茂吉は高名な歌人だったし、母親輝子はこれまた有名な旅行家だった。兄貴は、作家で精神科医の茂太、娘はサントリーの広報部員でものかきの斎藤由佳。
本書は、北杜夫氏の若き日から作家デビューの頃、その後の交遊録等々を端々に、ファミリーのギャンブル紀行の顛末を中心に書かれた北氏の躁病闘病記(!)である。
友人の作家連中のエピソードがなかなか面白い。曽野綾子女史のギャンブルで稼いだカネの使い道とか、星新一氏の夫婦そろっての"ナメクジ"度合いとか、笑わされるところがあるかと思いきや、倉橋由美子さんのしんみりとした思い出、そのほか遠藤周作氏、宮脇俊三氏とか、既に逝去された方々への思い出とか、とかいろいろある。
しかし、我らがマンボウ氏は、表紙の写真に現れているようにまだまだ意気軒昂なギャンブラー振りではある。