大津と御方の素晴らしい人生観を・・・
★★★★★
天武朝における王位継承問題で複雑な立場をとる大津皇子の苦悩と失墜を描いた歴史小説であ
る。一方で、自ら背負った過酷な運命を切開こうと、大津と御方の二人の皇子の素晴らしい信
頼関係を描いた小説である。
豊かな想像力と史実に基づいた日本の歴史に重ね合わせ、緻密に錬られた著者のストーリーが
見事に描かれて、読者は無意識のうちに1300年前の律令政治の確立をめざした飛鳥の地に連れ
て行かれた錯覚に陥るのである。
大津が持って生まれた人望と政治手腕が、やがて朝廷内で危険分子と見なされて、権力の外に
追いやられる姿は、現代社会にも通じるものがあるのではないだろうか?
大津皇子を慕い、最後まで献身的に尽くした御方皇子の人生がとても切なく、この小説では、
見事に描写されている。大津と御方皇子の絆が、中央権力に立ち向かって行く姿勢に、深く共
感できる、一冊である。