救いの光のクリスマス
★★★★★
クリスマスとクリスマスツリーの始まりを簡潔に論述した本。このグローバルな宗教的風習に関する学術的(歴史学&神学的)な見解がさっさと理解できて、ありがたい。
初期のキリスト教では、イエスの死と復活こそが重視され、彼の誕生日がいつであったかなど、それほど大きな問題にはならなかった。ところが、アレクサンドリアの異端的なキリスト集団(グノーシス主義者バシレイデス派)が1月6日(ないし10日)に行っていた「降臨祭」(イエスの洗礼時に神が「降臨」したことを祝う祭)を、4世紀初頭に教会の側が取り入れ、特にそれをイエスの「誕生祭」であると強調したことから、クリスマスの習慣が形成されることとなった。さらに、この「降臨祭」と「誕生祭」との区別を明確にするため、またローマ帝国で太陽巣拝を実践していたミトラス教に対抗しようとしたこともあって、ミトラス教の祭日であった12月25日を、「キリストという太陽」の誕生の日として読み替えることで、現在一般的となったクリスマスの期日が決定していった(東方正教会などでは1月6日クリスマスの風習がのこったが…)。
ツリーの方は、といえば、もともと枝や若木でクリスマスを祝う習慣があったところに加え、中世以来イブでよく催された「神秘劇」(楽園思想が背景)の中でモミの木が使用され、そこでモミの木の生命力がイエスによる救済と象徴的に結びついたことから、この木がポピュラーなものになっていった。1600年ごろまでには、モミの木が賑やかに飾り付けられ、教会のみならず街中でも見られるようになり、世に光を与えるキリストの、聖夜限定のシンボルとしての位置を確固たるものにしていったようである。
現在もクリスマス(ツリー)とこの祭礼をめぐる飾りつけのきらびやかさ(イルミネーション)とは不即不離の関係にあるが、その本来的な意味としては、異教徒の習慣をも巧みにとりこんだキリスト教の「光」の思想があったということが、よくわかるところである。