全曲で時に厳しく、時に優しいパティの世界が貫かれているが、本作のハイライトとなるのがイラク戦争を題材とした「レディオ・バグダッド」。ありったけの怒りと悲しみを込めた12分におよぶこの曲の、鬼気迫るほどの情念に圧倒される。黒人スピリチュアルのカバー「トランピン」で余韻を残しながら幕を引く本作は、21世紀の彼女を代表する名盤として語り継がれることだろう。(山崎智之)
まず、テーマの根源性・攻撃性。ひとつめは、ブッシュ政権への反発。彼女自身によると、“みんなで団結して、反戦/平和運動のシーンを作り出さなければならない”というメッセージ。ふたつめは、彼女の母の死。“母親の美しさと犠牲へのオマージュ”。(この点、アイテムには歌詞がついていないのが残念です。)
次に、平和や子ども――自分の子にかぎらない人類的な――を失うことへの怒り、平和や子への美しい犠牲を具現化したような、パティの激しいけども慈愛に満ちたロック・ヴォーカル。
そして、パティを支えるバンドの演奏も、ひとつひとつの音が強靭で、いわゆる“音が立って”います。
もちろん、聴いていて楽しくはないのです。でも、現実世界が生み続ける矛盾に対して怒り続けることの大切さ、しかしそれがいつか克服されていくという希望を抱き続けることの大切さ。狭義の(若い)パンクではないものの、誇り高く屹立したパティの詞、曲、ヴォーカル、バンドの演奏から、それらを痛感して、知らず知らずのうちに胸が熱くなる一枚です。
アルバム全体の構成も見事だ。ハードなロック・ナンバーに始まり、6曲目にインターヴァルの如く配されたフォーキーなナンバー、イラクの子供達の声を導入部に即興的な展開をする「ラディオ・バグダッド」から、ピアノをバックにしたスピリチュアルな最終曲の余韻まで一気に聞き通してしまう。
本年のと言うよりは、これはもう、泥沼のイラク戦争の時代を代表する傑作として記憶に残る作品だろう。
ラジオ・エチオピアの続編とも言える⑩、ハードなロックナンバーの①や③に挟まれた慈悲深い②、祈りのように捧げられる⑪・・・そして、ジャケット写真の傷ついた足、裏ジャケットのしおれかけた一輪のひまわりに込められた祈りと鎮魂のメッセージ・・・“Wave”“Dream Of Life”以来の久々の大名盤であることは間違いなし。全ロックファン必聴です。