次に、時には、聴き手とのあいだに一体感を作れず、過剰サーヴィスや自己満足に終わることもある、ジャム/ジャズのインプロヴィゼーション。そのインプロヴィゼーションやデジタル効果が濃密に敷き詰められている割には、メロディ・ラインはシンプルというか素朴というか、どこかで聴いたことのある感じや泥臭ささえ漂うポップ・ミュージックです。それがかえって、ジャム・バンド特有のインプロヴィゼーションが聴き手の鼻につかずにすむことになっているのではないでしょうか。
最後に、トラック11まで飛ばしたあとの、トラック12以降のクール・ダウンが絶妙ですね。ジャム・バンド特有のインプロヴィゼーションが聴き手の胃にもたれずに、お腹いっぱいになれます。
あと、DVDは、レコーディング風景を収めた約26分の作品。英語がわからないと退屈ですが、日本よりもはるかに牧歌的なレコーディング風景、ジャム・バンドの最高峰には似つかわしくないような牧歌的な風景を見ることができます。
基本的には「ファームハウス」での平易なスタジオポップ路線を深耕したアルバムといえそうだが、楽曲単位の質はこちらのほうが断然上。間奏曲的に挟み込まれる1~2分の曲を除くと、ほとんどの曲がシングルカットに値する普遍性とポップセンスを備えている。
最近のカウンティング・クロウズを彷彿とさせる軽快な(3)、フィッシュ版の「ロング・ワインディング・ロード」とでも呼びたくなるような(13)、意外なソフトロック趣味を露呈した(14)などを聞くと、まだこんなに持ち札が残されていたのかと、途方に暮れてしまう。
プロデューサー兼エンジニアのチャド・ブレイクは、90年代にロス・ロボスやスザンヌ・ヴェガのサイバーロック化を促した人物。生ドラムやギターにデジタルな音像を与えた(2)(4)などは、いかにも彼らしい。ただ、バンド自体のめくるめく新展開が強烈すぎるためか、今回ばかりはこの鬼才プロデューサーも影が薄い。
曲はいずれも3~4分の短いものばかり。しかし、どの曲にも長いインプロヴィゼーションが沸点に達したときの“濃密な瞬間”が無理なく収められている。
聞き始めて7年になるが、スタジオ盤で1曲残らず納得できたのは今回が初めてだ。個人的には大推薦。私も老若男女・ジャンル志向を問わず、すべての音楽好きに推薦します。