フリーカメラマン・南美希風の事件簿
★★★★★
◆「光る棺の中の白骨」
北極圏の街、ノルウェーのアルタ。
撮影に来ていた南美希風と、友人でガイド役の高部は、奇妙な事件にあう。
五年前に扉を溶接し、出入りが不可能な状態となっていた
元燻製小屋から、頭を割られた白骨死体が発見されたのだ。
関係者の証言によると、扉を溶接する際、屋内に人は
おらず、現在に至るまで、中に誰も入った形跡はない。
しかも、死体が、高部の元カノの彩乃である可能性が高く
なってくるのだが、三年前までは彼女は確実に生きていた。
果たして白骨死体は、いつから小屋の中にあったのか?
事件についてのディスカッションの中で、さまざまな密室形成の
方法の可能性が、丹念に検討されていく展開がうれしいです。
そこを読むだけで〈密室トリック〉の基本原理に触れることができます。
本作の密室トリックは、従来のパターンを応用したものなのですが、
何といっても、密室にする必然性、つまり犯人の動機が素晴らしい。
冷徹で即物的な物理トリックと、犯人の切実な願望が渾然一体に
溶け合い、ミステリでしかありえない美しい情景を現出させます。