言葉と現代人を探り当てる試み
★★★★★
再読だが、まだこの本のすごさを分かったと言い切れない。
「個」と「個」が言葉が意味するものを交換することで成り立つのが、近代社会であり近代演劇であったとすれば、現代はその「個」がくずれ「孤」になってしまったと考えられる。そこでは言葉の意味のやりとりよりも、それぞれの現場で「誰が」「どのように」働きかけあうかが生のリアリティの回復の根拠になる。
逆に言えば、人のありようが、黙っていてもその人がその人であることを承認された共同体社会の時代、そして言葉で働きかけあう近代社会を越えて、関係の中の点(ポジション)としてしか生きられなくなっていること、その関係を熱意を持って生きることしかできなくなっていること(それが執筆当時、問題になっていた、鹿川少年のいじめによる自殺、そして遺書による「告発」の意味だったとする)から、言葉の意味中心ではない、生きることの感触を回復する道筋を模索しなければならないのではないかという提示。
ベケットさんの極限的な不条理劇をたくみに読み解きつつ開示される世界観は、発表後20年以上たっても新鮮。