ベーム盤の対抗馬と見ることができる。1993年に亡くなったルチア・ポップのスザンナが聴ける。彼女のスザンナはベーム盤のマティスよりチャーミングであるばかりでなく、役柄を、よく理解した歌唱である。スザンナはこのオペラ全曲を支えなければならない役なので、このことは重要である。テ・カナワ/伯爵夫人は、ベーム/ビデオ盤より自然体。フォン・シュターデのケルビーノは、おどおどしているのが気に入らない。多くの録音でケルビーノはおどおどしているが、フルトヴェングラー盤/ヒルデ・ギューデン/ケルビーノのように、あっけらかんとしたほうが楽しいし面白い。しかし、第2幕のカンツォネッタ《Voi che sapete》において、このシュターデ以上の名唱を見つけるのは難しいだろう。サミュエル・レイミー/フィガロとトーマス・アレン/伯爵は、プライ、ディースカウの対抗馬。いずれも若さ・新鮮さという意味で成功している。以上を仕切るショルティの指揮は、歌手陣を完全に掌握し、明快・軽快・緻密だけでなく、リスナーを楽しませるサービス精神を感じさせる。ロンドン・フィルのサウンド、さらに、ジェフリー・テイトの絶妙なチェンバロ伴奏もあいまって、まったく欠点のない《フィガロ》に仕上がっている。録音は、さすがDECCAだけあって、臨場感をねらって趣向が凝らしてあり素晴らしい。スリリングな1981年のデジタル録音。

フィガロの結婚は、名盤が数え切れないほどありますが、ショルティの指揮は、非常に軽快で、有名な序曲は３分５１秒で駆け抜ける、これはクレンペラーの解釈の対極に位置するが、この喜劇の序曲として、聴き手をわくわくさせるテンポであると思う。全曲を３時間弱で演奏しているが、有名なアリアなども充分楽しめる丁寧な解釈である。１９８１年、ショルティ６９歳の録音で、発売は１９８２年、ショルティ７０歳の記念とデッカとの契約３５周年記念というわけで、彼の人生の半分はデッカとの専属である事になる。チェンバロは、ジェフリー・テイト。歌手は、ルチア・ポップ、キリ・テ・カナワ、フレデリカ・フォン・シュターデなどそうそうたるメンバーである。この後に台頭してくる、古楽器演奏に通じる、軽快な演奏は、時代を先取りしていたようである。