ホルンのルーツを巧みに織りいれたブルックナー「らしさ」を感じるアルバム
★★★★★
ホルンという楽器のルーツは、その名の通り動物の角を用いたもので、時代とともにその形状が整うに従い、奏法や奏でられる倍音も増加してきた。狩猟や宗教の儀式の他、通信などにも使用され、特に山岳地帯における斜面の反射を応用した伝達は、ヨーデル奏法と並んでヨーロッパの山岳における一つの原風景とも言える。
クラシック音楽では、ホルンの音色が幅広く柔らかい特徴を活かし、様々な情感を表現できる金管楽器として重宝されてきた。
そんな中、オーストリアで前期ロマン派に宗教的な楽曲表現を志してきた交響曲作家ブルックナーの作品を、ホルンで奏してみようという当盤の試みは面白い。なんといってもオーストリアはアルプスの麓の国(つまり本場)であるし、ブルックナーはカトリック教会のオルガン奏者(信者)であった。なので、この企画はすでに様々なイマジネーションを私たちに与えてくれるに十分である。
内容はバボラークのホルンの音色の美しさが圧巻であり、その柔らかで輝かしい音色がブルックナーの宗教曲の特徴をより浮き立たせてくれている。ホルン・コーラスとオルガンのみのバックというのも慧眼で、肌触りの暖かい音色になっている。モテットの編曲では人の声よりむしろソフトなイメージが曲を引き立たせているし、高名な交響曲第7番のアダージョを編曲したものもバボラークの音色の多彩さが見事で、聴き応え万全。このような編曲ではしばしば「原曲の方がいい」みたいな的外れのコメントをする批評家がいるが、編曲というのはそれ自体が一つの芸術的創造的活動であることもあらためて確認の上、高く評価したいアルバムである。録音も素晴らしい。