乱世の安吾の真骨頂
★★★★★
世が乱れると安吾が読まれると言われ、「乱世の安吾」といつしか呼ばれる(?)ようになった彼の代表作の一つです。
既存文学への挑戦者であり続け、荒廃し価値観が根底から奪われた戦後の日本で、積極的に「生きよ、堕ちよ」とうったえた
彼の強靭なリアリズムは、空虚な「自分らしさ」論が氾濫する今こそ必要なのではないでしょうか?
政治不信、理解しがたい犯罪、企業の不祥事。乱れきった世の中に立ち向かう心構えとして安吾的堕落論は
一つの解決策なのではと思います。
19歳夏の一冊
★★★★☆
10代最後の夏に読みました。煩悩だらけ、様々な悩みに満身創痍だった私にとって、救いの一冊でした。
誰も質問してくれませんが、もしあなたの青春の一冊は?と問われたら、この本を選ぶでしょう。
「失恋こそ人生の花であります」
初めて読んだ時、アイロニックだと感じ、納得半分、疑い半分で受け取ったこの一文。今となっては激しく同意。
ハッピーエンドは最後の最後にとっておけばいい。それまでの過程は、辛ければ辛いほど、実り多く甘美なものだと思います。実際そうでした。
「京都の寺が全部吹き飛ばされても、日本の伝統はびくともしない(うろ覚えです)」
誰からも頼まれてないのですが、10代の私は、今後成人する我々の世代が、消えゆく日本の伝統を守っていかなければと考えていたのです。
肩に力入ってガチガチでした。
坂口安吾の持論は極端かもしれませんが、寺院に日本人の伝統や魂を求めなくても、新宿のごみごみしたネオン街にも、それらは脈々と受け継がれ、
たくましく根付いているのだという意味の文章に、「もう少し力抜いていいよ」と言われた気分になり、救われました。
夏休みに読んで欲しい一冊です。
堕落の美
★★★★☆
氏による新たな視点による評論集です。文学、宗教、戦争、異文化、歴史、心理学といった様々な分野における深い洞察を伺い知る事が出来ます。とりわけ、堕落の必要性を謳った「堕落論」、「続堕落論」は一読の価値があると思われます。
「堕落自体は常につまらぬものであり、悪であるにすぎないけれども、堕落のもつ性格の一つには孤独という偉大なる人間の実相が厳として存している。即ち堕落は常に孤独なものであり、他の人々に見すてられ、父母にまで見すてられ、ただ自らに頼る以外に術のない宿命を帯びている」
宙に浮く、何かを掴みたい人へ
★★★★★
これらの文章を読み、何も思わないようであれば、それはそれで個人的には悲しいことだと思うが、それならばそれで構わない。これよりも、はやりの恋愛小説の方が心を打つというのなら、それでいっこうに構わない。むしろそちらの方が、濁った感想を述べられるよりはマシである。とかなんとか書いたところで、自分は徒然草もけっこう好きです。ははは申し訳ない。
救いがないということ自体が救い
★★★★☆
「そうして、最後に、むごたらしいこと、救いがないということ、それだけが、唯一の救いなのであります。モラルがないということ自体がモラルであると同じように、救いがないということ自体が救いであります。」
救われたい、誰かが救ってくれるはず、との思いには救いはない。モラルとか救いとは現象学でいう一般定立を意味しているとすると、この一般定立をいったん停止する現象学的還元に真実のモラルや救いがあるようにおもう。モラルや救いの思想以前に現実世界は存在しているが、人はこの世界との衝突によって自己を見いだすことが救いとなるとおもう。