「昭和の男たちは自信と誇りに満ちていた 消えゆく日本の貴重な『技』を伝える”聞き書き”シリーズ第1弾」と帯にあるように、職人的職業の紹介は雑誌掲載時の意図とは違って、今ではほとんど民俗学レベルにまで貴重なものになってしまったのだった。この本では、花火師伝、焼きイモ屋伝、刺青師伝(全身に彫るには10年かかるとか)、万年筆職人伝、飴職人伝、闘犬伝、人体標本職人伝、ビードロ職人伝などなど37人の無名の匠たちの技を緻密かつ大胆な素晴らしい絵と文章と味のある文章で伝えている。ひとりひとりの職人のこだわりには、ひたすら脱帽するしかないほどだ。「日本で最後の~」という職業ばかりなので、現在では存在しない仕事も多いだろう。
子供の遊びを紹介した本など、とことん「手作り」「職人技」ということにこだわる作者であるが、生活のすべてが自給自足で、生活の中で使うものはすべて自分で作るそうである(大きな丸太をボルトでしめて作った囲炉裏、ドラム缶を切り溶接して作ったストーブ、孟宗竹で作った大根おろしなどなど)。トイレもなく、用を足すときにはスコップを持って山に入るのだそうだ。ここまで徹底して自立した生活を送っている人もなかなかいないだろう。自分の力だけで生きていく、そんな逞しさを私たちのほとんどはかなり失ってしまっている。
せっかくの文庫化なのでその画才と着眼点に圧倒されるべし。