これからますます重要性をましていく書
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1980年に出版された本書。つまり80年の時点から戦中と戦後の日本を見つめた著者なりの「戦後思想観」を読者は触れることになる。率直に言ってその内容は「古い」と一言で済ませることができないどころか、「温故知新」そのままであり、非常に学ぶべきこと痛感させられることが数多くあった。青島生まれで 28才で敗戦を迎えた社会学者である著者。戦中と戦後の体験を通して日本や日本人が変化したところと変化せずに時だけが過ぎ去った思われるところを、著者の実感をもとに大上段ぶることなく足元から素直に、しかし適確に論じている。「思想」という言葉から連想される難解な言葉や理論の解説といったものはほとんどない。
著者は戦中戦後を「軍国主義」「民主主義」「高度経済成長」と三つの時代に大まかに分類。「軍国主義」の時代では、日常にこそ戦争を生み出す種子が存在していたと分析し、「高度経済成長」の時代では、それが原因と思われる「滅公奉私(私生活優先)」による政治無関心への批判。特に「強制社会」から「管理社会化」への推移が結果としてつきつけた日本人の文化や生活の画一化や、「主体的選択」と無意識に思わせながら実は選択肢を与えていない「おしきせ生活化」へは強い不満を表している。他に水俣病を取り巻く生活を取り上げるなど、いずれも出版当時の時代を反映していると思われる論があるが、80年以後も共通した問題と推測できる箇所はその他にいくつもあり、社会批評として現在でも充分に通用している。
戦後を語るときは、どうしても現在と敗戦時の関係だけを注目してしまい、その間の何十年間に論じられた様々な戦後観や、その中での連続性と断絶を見落として、とても単純で画一的なものになる傾向がある。そういったものを少しでも解消できるのが本書であり、戦後の時が経つにつれて、ますます価値を高めていくのではないかと思う。