二作並べて読むと、はっきり優劣が付いてしまう
★★★☆☆
【孤独なアスファルト】
終戦による混乱から抜け出し、高度成長を続ける大都会東京、
そこに東北の田舎から集団就職でやってきた青年田代が、
殺人事件の容疑者となる。
地方出身者の方言によるコンプレックスや、孤独感が良く描か
れているが、物語の中盤以降は事件を捜査をする来宮警部が
主役となり陰が薄くなる。
来宮警部は足による地道な捜査を繰り返す。乗り物に乗るとし
ても、バスや電車で、当時はまだパトカーが充分に配備されて
なかったのかと思ってしまった。
事件のトリックは、都内と都下の気温差を利用するなど、面白い
ものがあるが、重要な証拠を犬がくわえて持ってくるという件に
は、少し疑問を感じた。
東京という大都会に住む人間の孤独というテーマの選定がうまい。
ただ、後味がちょっと悪かったのは残念。評価は★★★
【蟻の木の下で】
動物園で発見された男の死体には熊の爪痕が、との事ですが、
当時の鑑識でも、熊の爪痕か、それ以外の凶器かは区別が
付きそうな気がする。
関係者も、新興宗教に関わっている人が多く不自然。
やたらと一人の人間を悪者として書いているが、作者は戦争
犯罪で何を訴えたかったのか良く判らない。
犯人の登場の仕方も、推理小説のルールに反する。
序盤から犯人の影くらいは匂わせて置くべきではないか。
文句ばかり言ってるようだか、江戸川乱歩賞全集として、
二作並べて読むと、はっきり優劣が付いてしまう。
勿論、レベルの高い年もあれば低調な年もあり、受賞作なら
それなりに一定の水準には達しているのであろうが。
評価は★★
既に絶版となった過去の作品を、文庫本で手軽に読めるのは
ありがたい。この巻には選評もついており、審査員たちの、
新しい才能を世に送り出そうとする熱意が感じられる。