75歳の吟遊詩人の感動的なワールドツアーの記録
★★★★★
感動。魔法。奇跡。30年来のコーエン・ファンにはそんな言葉しか浮かんで来ない。CDから流れて来るお馴染みの曲のいまだに失われない瑞々しさと増していく説得力、バックのメンバーの素晴らしい演奏、DVDでの素晴らしいステージ・パフォーマンスと観客の興奮。ツアースタッフの一人が語っていたが、コーエンは若い頃でさえ滅多にツアーを行わず、ここ20年くらいは全くしていなかったらしいので、本当に奇跡のワールドツアーだと思う。
75歳の老人が呟く様に歌う姿を見てもう一つ浮かんでくるのが「吟遊詩人」と言う言葉。年老いてなお盛んな吟遊詩人とその仲間が放浪の旅に出て、2年間かけてアメリカは西海岸からイングランド、スコットランド、ドイツ、スウェーデン、フィンランド、そしてはるばるイスラエルまでを周遊している感じ。
彼は詩人。だから詩を朗読するように、慈しむように歌う。キーも下がり声も枯れているがその説得力は健在。そしてバックの演奏が彼の朗読を盛り立てれば完璧なステージとなる。メロディを補完する女性バックコーラス(かつてはJeniffer Warnesもその一人だった)と、バンドの演奏は彼に対する愛情に満ち溢れていて、月並みな言葉しか出てこないが「感動的」。
全12曲、何れも彼が愛着を持って歌い続けている曲ばかりだが、ギターとbanduiraの伴奏も素晴らしい代表曲「Bird On The Wire」、Godinのギターでしっとりと歌い上げる「Suzanne」、出だしのマイナーコードのイントロから
"it's four in the morning"
とコーエンが歌いだすと観客の嵐のような拍手が起こり、最後にアドリブで
"sincerely L.Cohen"(本当の歌詞は sincerely A Friend )
と〆る憎い「Famous Blue Raincoat」、そして代表曲にして、野外コンサートの観客の興奮につられるように珍しく派手目のパフォーマンスを繰り広げる「Hallelujah」あたりが聴きどころだろう。
CDの音質はライブにしてはとても良好。DVDの画質も良好。これでこのお値段はファンでなくてもお買い得ではないだろうか?なお、渋い表写真の豪華な紙ジャケットは異型サイズで通常より少し縦長となっている豪華版。レナード・コーエンをジェニファー・ウォーンズ等のカバーでしかご存じない若い方にも是非聴いて頂きたい、観て頂きたい傑作と思う。