日本の集団主義や年功序列、終身雇用は元々存在しない神話だった。
★★★★☆
日本企業社会についてよく言われている集団主義、年功賃金、終身雇用等について、すべて事実に即していない神話に過ぎないと喝破する。著者が「仕事の経済学」に続いて本書を出したのは、これらの神話にとらわれて制度改革を行うことが長期的に見て日本産業の成長を妨げることを危惧するからである。
・集団主義:日本古来のスポーツ(武術)は剣道、柔道、相撲などすべて個人競技であり、チームプレイは発達しなかった。和歌の世界でも選者は1人であり、合議制ではない。日本人はその同質性故に集団内での競争という個人主義なのである。
会社の査定でも上からA,B,C,D,Eとランクがあれば、それぞれに10%,20%,40%,20%,10%の人間を対応させる。これは明らかに個人主義だ。米国では訴訟を恐れるせいもあり、90%がB,Cの団子状態になるという。
・年功賃金:江戸の頃より、役人は役目に応じて石高をかさ上げされ、有能ならばどんどん昇進していった。これは商人も同じであり、明治〜戦前まで軍人も含めても同じで、有能なら一気に昇進し、高い報酬を得ていた。年功賃金は日本古来の風習でもなんでもない。
・終身雇用:統計を見ると欧米より日本の方が40〜50代で職を変えており、定年まで同じ会社で雇用される率は少ない。また、ブルーカラーの場合、米国では先任者の権利が強く、レイオフされる順番は後から入社した順だそうだ。
・長時間労働:日本人は働きすぎと言われるが、そうではない。欧米ではホワイトカラーはそもそも労働時間を記入しない。高度な専門知識を駆使する頭脳労働者が時間で縛られるのは不自然だそうだ。したがって記録が取れるのはブルーカラーのみ。彼らと日本のサラリーマン(ブルーカラーとホワイトカラーが一緒くた)を比べたら、日本が長時間になるのは当たり前である。
組合専従者の給料を会社が払うのも普通で、日本だけが組合費で専従員の給料を賄う建前になっているのは、GHQの影響だそうだ。
では、組合の役割とは何だろう。一律に労働時間を少なくすることではない。仕事をやりたい知的労働者に時間制限の足枷をはめることになる。会社と共に適切な人員配置や生産計画を立てることであろう、と主張する。
それが現在の日本では会社も組合も上手く出来ない。しかも極端な成果主義を導入した。その結果、一部の人材に業務が集中し、心身ともに疲弊してメンタルヘルス問題が続出しているのではないか。これは私の感想である。