硬質で透明な輝きを持つ文、ほかの作品も読みたくなる。
★★★★★
何となく手にした、初めての著者の本。主題は、双子と香水。最初は、それほどと感じなかったが、話が進むにつれ、文章の透明感、輝き、人物像の美しさ、抑制された官能、ちょっとしたホラー的要素、それぞれに惹かれてしまった。夢の描写は、実に幻想的、神秘的でさらに透明で冷ややかだ。私は文学徒ではない。むしろ、文学に自分だけが酔い、国語力の要請にさしたる力も持たない国語教師を軽蔑する人間である。しかし、上田早夕里は、すっかり気に入ってしまった。少しは文章を味わいたい人にはぜひお勧めできる作品だ。ただ、人物像は、少し透明すぎるかも。異星人のように感じる部分もある。香水といえば、平岩弓枝の小説に香水を題材にしたものがあったと記憶する。平岩弓枝の作品は、あくまでも香水は題材、副食にすぎない。材料だ。しかし、この美月の残香は、材料にはとどまるものではない。主題の核心である。くどいがぜひお勧めしたい。