孤高の詩人トム・ウェイツが新たな音世界にチャレンジした意欲作。自らのヴォイスでヒューマン・ブーム・ボックスをこなし、ターンテーブルも随所で使用している。マーク・リーボウ、ラリー・テイラーといったおなじみのプレイヤーに加え、プライマスのレス・クレイプール、元プライマス~ガンズ&ローゼズのブレインがゲスト参加するなど、“音”そのものへのこだわりを感じさせる作品となっている。ただ、全曲をトムと長年の相棒キャサリン・ブレナンが共作、ブルースやラテンのリズムを取り入れたユニークな音楽性、そしてあまりに個性的なヴォーカルのおかげもあって、どこから切ってもトム・ウェイツの体臭がぷんぷん漂ってくるアルバムだ。
2002年の『アリス』『ブラッド・マネー』は2枚同時リリースで話題を呼んだが、今回は1枚物とはいえ、トータル70分オーバーの大作。そんなところからもトムのアーティストとしての充実ぶりが窺える。(山崎智之)