授業を受けているようで、独学者には有難い本
★★★★☆
本書を手に取ったのは、同じ著者らによる『「複雑ネットワーク」とは何か』(以下「新書」と表現)が非常に面白かったからである。読む前は、本書を一般読者向けに書き直したものが新書なのではないかと思っていたが、そういうわけではなかった。ポイントのおきかたも違うし、執筆の際の狙いも異なるのだと思う。以下では、新書との比較という観点から、本書についての感想を記す。
新書の目的が複雑ネットワークという概念そのものの紹介にあったのに対して、本書では、主要なネットワークモデル(スモールワールドモデル、BAモデル、階層的モデル、閾値モデル、等)の性質(平均頂点間距離、クラスター係数、スケールフリー性、ネットワーク構造の規則性、等の諸側面)の解説に重点をおいている。特に、これらのモデルの数理的性質について考えたり、そこから何かを演繹する際に、実際にどうやって考えるのか、その実例を示す、という点に力を注いでいるように感じた。そのため、新書では数式は一切登場しなかったのに対して、本書では、数式を用いた具体的な記述がしばしば登場する。これは、ある意味、授業を受けているような感じで、ネットワークの科学を専門としない読者で自分で考えてみたいという人には有難い。(ただし、数式の出てくる節を読み飛ばしても続きを理解できるように配慮されているので、数式を苦手とする読者も安心である。)主要なモデルの解説の後に、パーコレーション、コンタクトプロセス、連合振動子などのトピックも取り上げられている。巻末には、日本語で書かれた図書・論文(翻訳を含む)60程度を含む、145の参考図書のリストが掲載されており、独学の助けになる。文章は、新書と比べるとやや読みづらく感じたが、新書の文章が信じ難いほど読みやすかったということかもしれない。
読む順番としては、新書を読んだ後に読むのがよいのではないかと思う。
ネットワークを研究しようとする学生が最初に読む本
★★★★★
これまでのネットワーク研究の理論の流れを初学者にもわかりやすく解説している。数式は出てくるが、必ずしも数式を理解しなくても読ことができるように書かれている。数式も大学理系程度の数学力があれば理解することはそれほど困難ではない。また、この本は参考文献が充実しており、興味を持った読者がさらに学ぶ機会を手助けしてくれる。紹介されているいくつかの有名なレビュー論文を読めばさらに広い知見を得ることができるでしょう。ネットワークを研究しようと思う初学者が最初に読むのにふさわしいのではないでしょうか。
バラバシやストロガッツを読んで、あきたらなかた貴兄へ
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スケールフリーネットワーク、スモールネットワーク、SYNCなど、最近サイエンスはすっかりネットづいている。でも、日本語の資料は一般向きばっかりだったりする。自分でシュミレーションを組んでみたり、解析しようとしても、資料がない!
そんなお悩みを持つ方にはお役立ちの一冊!実は先日作者の増田さんの講義を聞かせていただいたが、実にわかりやすかった。また、興味深かった。
ネットワーク科学をツールとして利用しよう。
★★★★☆
ネットワーク科学の啓蒙書を読んでこれは面白いアイデアだと思ったあとに、さらに深く理解したい人におすすめです。数式を使って説明されておりますが、かなり丁寧に書かれておりますのでネットワーク科学をツールとして利用される方にはよい参考書になると思います。
バラバシ本、ワッツ本、ブキャナン本を読んで、複雑ネットワークに興味を持った方にお薦め
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複雑ネットワークに関する一般向けの解説本(バラバシ「新ネットワーク思考」、ワッツ「スモールワールド・ネットワーク」、ブキャナン「複雑な世界、単純な法則」)を読んで、もう少し具体的な数学/モデルを交えながら理解したいという方にお薦めできます。
数式入りなので、大学理数系の人向けの本だと実際に読んでみて感じました。数式をいじるところは、中にはかなり歯応えがあるものもあります(途中の変形をすっ飛ばししたところもあります)。序文では「理数系に興味をもつ高校生でも理解できるかも」とありますが、ゆとり教育で得られた自由時間で大学の数学をかじった【スーパー高校生】でないとフォローは難しいでしょう。(今時の日本に何人居るんでしょう?)
とはいえ、数式でどんな結論を得たのかという説明はうまくなされているので、上で挙げた一般向け解説本で得られた知識を、更に具体的に、より深く理解する助けになります。
例えば、ネットワークのモデルが数多く紹介されています:完全グラフ、格子・サイクル、木、ランダム・グラフ、一般化ランダム・グラフ、スモール・ワールド(ワッツ・ストロガッツ)、BAモデル(バラバシ・アルバート)、適応度モデル、頂点非活性化モデル、 SW頂点非活性化ネットワーク、階層的モデル、閾値モデル。現実のネットワークの特徴(大きなクラスター係数、小さい平均頂点間距離、次数分布のベキ乗則)に対応しそうなモデルとしては、最後に上げた3つという現時点での結論は、大変参考になりました。(上の一般向け解説本では得られなかった情報です)
複雑ネットワーク上の物理現象(パーコレーション(浸透)、結合振動子(同期/非同期))についても言及されています。この手の話は、まだまだ理解がなされてないところも多いらしく、まさにHOTな話です。その辺の理解が進むと、ニューラル・ネットワーク(脳)、遺伝子のネットワーク、タンパク質の化学反応のネットワークなどで起きる物理化学現象(情報伝達、同期など)の理解も深まる期待も出てきますので、この分野の今後の進展に目が話せません。そんな話題について行くときの言葉を理解するためのとっかかりとして、本書は非常に役に立つと思います。