ドイツ人気質で真面目な長編小説
★☆☆☆☆
大学で教鞭を執る傍ら、作家として活動するベルンハルト・シュリンクによる長編小説。
ドイツ人気質というか、基本的に真面目な印象がある作風(邦訳による)。
シュリンクの代表作と言える『朗読者』は幅広い読者層に受け入れられ、映画化もされたが(邦題は『愛をよむひと』)、本作は対象となる読者層の幅が狭まった感がある。
ヘッセの全著作を読破して、それと似た雰囲気の作品を探している人や、ドイツ人の思想に強いシンパシーを感じる人にとっては一読に値するかもしれない。
死んだとされていた父捜しの話。
★★★☆☆
読み進んでいくうち、何が真実なのかわからなくなってくる。母の話、自分の昔の記憶、祖父母と思っていた老人たちはいったい誰?サスペンス仕立てで読ませる!後半のその結末が・・・いまいち。
父とされていた人物がそうではなく、自分の過去の行動を誰でもその状況にあればとる行動として理解させようとするが、その設定自体に無理がありはたして、それほどの人物がそんな自己弁護をはたしてしようとするのか?”朗読者”の読後感の残像を引きずる読者はちょっと幻滅するかもしれない。
自らの過去のアイデンテティ探しがそれほど重要であれば現在はどうなるのだろう
★★★★☆
主人公は父を第二次世界大戦時に失い、母と祖父母に育てられたという過去をもつ。しかし、祖父母が現役後の活動として行っていた雑誌に編集された作品のなかにある戦争帰還者の話を見つける。家に帰った帰還者は、妻の横に見知らぬ男と子供を目にする。
やがて、この小説が、実際の話に基づいている事、しかも死んだと思っていた自分の父の物語なのではという考えにたどり着き,それから事実をつきとめるため、過去の記録をたどり、国をまたいだ真実を求める旅へと主人公はかき立てられる。
皮肉な事に、彼にとっても、その旅は、愛するものを去るのか、愛する人は自分を待つのか、関係が破滅するのかという、同じ岐路を再現するかのようになる。
戦争やまた別の理由で自分の前からいなくなった人を残された人は待つのか、あきらめるのか、また、帰ってきたものは、受け入れられるのか、受け入れられようとするのか、受け入れられないのか、また万一そこに第三者がいれば、対峙するのか、あきらめるのか。
また、法学者であり、古典に通じた作者は、この永遠ともいえるテーマを法の原理とオデュッセイアの物語に重ねてさらに深く主人公に考えさせることによって、同じテーマを、筆者は、時代、場所をうつして様々に洞察しようとする。またこの物語の懐古時の時代設定が、ドイツナチ政権時代を含むものであり、ともすれば極めてリスクの大きい題材であるのだが、筆者独特の冷静沈着な筆致によって、政治的意志を排除したあくまで客観的視線を読者に提供する。
しかし、戦争によって、引き裂かれた主人公のアイデンテティの激しい揺らぎと、それを多角的にとらえる筆者の深い洞察は、現代の一大悲劇を確立したかのようである。
難しいテーマのように見えるが、人間の根本的な不安に多くの人が共鳴すると思う。