かつてレーザーディスクの「新世界より」にＢ面カップリングされて発売された、「ただ音楽に身をゆだねて」の完全版です。ＮＨＫでも、巨匠の追悼企画として、もう少し長いバージョン（８０分くらい？）が流れたような記憶がありますが、これはトータル１００分。
監督のヤン・シュミット・ガレは３年間をチェリビダッケとともにし、さまざまなチェリビダッケの表情を捉えることに成功しています。この完全版には、すでに見慣れたシーンもありますが、演奏シーン含め、より構成的にも納得がいくものになっていて、冗長さを感じさせません。「音」がいかなるプロセスを通じて、「音楽」となるか、その根本思想のところを、実践を含めて執拗に追いかけています。ブラームスの室内楽、ブルックナーの声楽、バッハ、ベートーヴェンから現代音楽まで、何を取り上げるにも、根本の姿勢は同じ。この妥協なき姿勢があったからこその、あの透明感あふれるバランスが達成できたのだ、と改めて納得がいきました。

ドイツ製のディスクですが、英語・ドイツ語・フランス語・スペイン語・イタリア語の他、日本語でも字幕がついています。ただこの翻訳は日本人以外の手によるものなのか、あまり出来がよくありません。一部には翻訳抜けもあるほどです。ただ、いままでの他のバージョンとも違うニュアンスで伝わっているところがあり、意味はこっちの方が正確なのかも、と思わせる部分もあります。

気になったのは、画質。かつて他のソース（放送など）で手に入れたものよりも発色がよくありません。一部には同期が乱れるように見える部分もあり、これがマスターの劣化によるものなのか、あるいはオーサリングがいい加減なのか、判断に迷うところです。それがなければ★５つなのですが。

「ただ音楽に身をゆだねて」の方がそこそこいいタイトルだと思いますが、正確なタイトルの意味合いは、
「何もしなくてよい…ただ音楽が自ら展開するのを手助けするのだ」
みたいなことだと思うのです。身をゆだねるっていうのは、チェリビダッケらしくないですね。