「第三の波」概観
★★★★★
著者は本書において、「第三の波」(1990年代の
探偵小説運動)の特徴を、二点挙げています。
◇哲学、思想、文学、人間科学などをめぐる知見が、論理的な謎解き
小説には過剰ともいえる質および量で意図的に導入された点。
◇犯人や事件の真相をめぐる探偵小説的な解明が、同時に
世界の謎の「解明」でもあるという構成的な二重性を持つ点。
特に重要なのは、後者。
探偵の叡智によって事件の謎が解かれることで、
読者はいわば濃霧に閉ざされた日常から解放され、
作者が組み上げた輪郭鮮明な世界像を手に入れることができます。
それ以前の支配的な世界像が崩壊した90年代。
否応なく謎めいた世界に巻きこまれた人々の
不全感や窒息感に応えるように、90年代の
探偵小説は存在した、と著者は解釈しています。