カーンはシュガー・ロスのサウンドにある種の洗練を加えているのだが、それが彼らの足を引っ張っているのだ。「Chasing You Around」にはストリングスによる映画音楽風のイントロがつくが、少々バランスが悪い。失われた愛を歌ったシンプルですがすがしい佳曲「Can't Start」にもストリングスがあしらわれているが、やはり場違いな感じがする。
ただし、「Mr. Bartender (It's So Easy)」でカーンがつくり上げた音空間は納得のいくもので、ヒップ・ホップのバック・ビート、ジャジーなピアノ、バックで聞こえるおしゃべりが、ピンクの「Get This Party Started」にも似た祝祭的な雰囲気をかもし出す。
だがマーク・マックグレイスの歌声は、このクレイジーなミックスには少しばかりおとなしすぎた。マックグレイスはジョー・ジャクソンの「Is She Really Going Out with Him」の上出来とはいえないカヴァーも披露しているが、変わりばえのすることは何ひとつやっていない。安全運転を嫌うこのシンガーにはめずらしいことだ。
このロック界のピーター・パンたちは、持って生まれた猥雑(わいざつ)なパワーを発揮してこそ魅力がある。しかし、今回は2003年のビーチ・ボーイズのような清潔すぎる作品となってしまった。(Jaan Uhelszki, Amazon.com)