原著"Once Upon a Number"の特徴を一言でいえば,最近売れている同著者パウロスの『数字オンチの諸君!』とよく似た部類のものであり,「物語」観によって科学・数学の役割を世の中に見ようという本である.「物語」で見ていくということは,科学的知識を脈絡の中で考えよう,ということでもある.とくに日本国内での科学軽視の主因の一つが,100年の寿命をもつことも珍しくない科学的知識を使い捨て商品として扱っている中にあることを考えれば,多くの人に読んでもらいたい作品である.
しかしながら,この本を訳書で手にすれば難解な科学哲学書に見えてしまう.しかも原著にある,たとえば小数点表記と千単位のカンマとを混同した誤訳なども目立つ.パウロスの別著の翻訳のある野中陽代さんの翻訳で読み直せたら嬉しい.