述べられている考え、気持ち、それらはすべてが北海道家庭学校の生徒への思いであふれています。一人一人の生徒のこれからの長い人生のために、この学校の校長としてなすべきことを考え、そのために私生活の一部を犠牲にしてまで尽くそうとしている先生たち。それらの人々への強い思いが、この本にはあふれていました。
しかも、いろいろな説諭がすべて分かりやすい例え話で表現されていることは、表面的ではなく、この先生が心の底から生徒たちを思い、その導きを考えている証と考えました。
たとえば、276頁のフローリングをぴったり重なり合わせる事例で、お互いの一部が削られて、そこが重なり合うから、隙間なく、しっかりと組み合わされるのだ、力を合わせるためには少しずつ自分をへこませることが必要だ、という説明は、何も家庭学校だけでなく、我々の身の回りでも、すぐに使えそうなお話です。
民間企業に勤務していると、経済性だの、効率性だのというような話ばかりで、なおかつ口には出しませんが、人を出し抜いていくのが奨励されるような世界です。もちろんそれで利益を出し、株主への配当を出すことや、従業員の生活を守ることが目的なので、決して悪いことではありませんが、あまりにも考え方の方向性の違いに、背筋を伸ばされる思いを強くしました。
無断外出した子供たちの捜索の必死さ、そしてその子達が帰らぬ人となった時の責任者としての無念さも、強く強く感じさせられました。
人生は皆一人一人別の道を歩んでおり、どの道にもそれぞれの喜びや悩みがあることと思いますが、北海道家庭学校に奉職された職員の皆さんのその道は、崇高で満ち足りた生活ではないかと考えます。