また謎が増えてしまい続きが気になってしょうがないが、いつも良い意味で予想を裏切ってくれるので、
長いこと待つ甲斐のある漫画だと思う。
人喰い、そして殺戮には、彼らなりの事情があるのだ。それは、読者に時として不可思議な感情を呼び起こす。
例えば、ある重要人物が殺されるショッキングなシーンがあった。彼女の死体は無残に千切れていた。しかし、彼女を殺した妖に、私はどうしようもない切なさを感じた。
勧善懲悪が通用しない漫画である。
胸に引きずるような澱が残る。しかし、不快な後味ではない。
彼女は墜ちるところまで墜ちることによって、次第に意地や拘泥を洗い落とされ、透明に、純粋になっていく。そして、ついには、生むはずだった赤子にとってだけでなく、この物語においての母なる物の象徴となった。
シンプルな(究極に削ぎ落とされたともいう)千と、飾らない身近な言葉で語られるTONOさんの物語は、そのくせ深淵で、時に凄惨にして悲しく──いつも、喩えようもなく愛しい。
ニッケルが幸せでいてくれて嬉しい。
キサスと手をつないで、楽しげに手を振る彼女の姿は、とても、とても、美しかったと思う。