戦後日本を代表する女性歌手=美空ひばりのことを、単なる「歌謡界の女王」と思っている人がいたら、このアルバムを一度聴いてみてほしい。ジャズやポピュラー・スタンダードといった欧米の大衆音楽を天賦の才能でもって消化・吸収したからこそ、その後の彼女があったことが実感できるに違いない。録音は昭和20年代頃らしく、デューク・エリントンの「A列車で行こう」における天性のスウィング感は、今聴いても新鮮そのものだし、「上海」「スターダスト」あたりも素晴らしいの一言。加えて、シャンソンの「ばら色の人生」、ブルースの「クライ・ミー・ア・リヴァー」までも歌いこなしてしまう懐の深さときたら…こんな凄いシンガー、二度と出てこないでしょう。 (木村ユタカ)
歌うことが生きることだった天才歌手
★★★★☆
永六輔の市井の人の名言集をあつめた本で、「昔の芸能人は何でもできたけど、今の芸能人は何でもやるね」と皮肉めいた言葉を思い出しました。もともとジャズやスタンダードを歌うきっかけとなったのは、3人娘の1人だった江利チエミをうらやましがってのことだったらしいです。江利チエミは、実力も才能のがあったのに、現在はほとんど評価されていないのを、とても残念に思います。彼女は、「ひばりちゃんは天才、わたしは努力をしなくっちゃ」と言っていたそうですが、美空ひばりも陰ではかなり努力をしていたと思います。芸事(クリエイティブな仕事)とは怖いもので、自分自身に満足してしまった時点で、腐っていくものなのです。
音が良くない曲もありますが、全曲素晴らしいと思います。美空ひばりは、歌手としての天性の才能に、とても耳の良い歌手だったと思います。英語の発音などもとてもきれいですし。美空ひばり=演歌歌手と思っていると、とんでもなくショックをうける魅力的なアルバムだと思います。
最高に癒されます
★★★★★
美空ひばりと聞くと演歌かと思ってました。
しかし、一曲ラジオから聞いて思わず購入、すばらしー!
最近のマイフェイバレットとなっています。
驚嘆の一言!
★★★★★
既に皆さん書かれていますが、私もホンッとに歌の上手さにはビックリしました!
単に演歌歌手の枠では語れない方ですね、本当に。
ひばりさんのことを日本で一番歌が上手い人って、よく今でも言うじゃないですか。私もこれを聞いて改めて、本当だと思いましたね。あれこれ比較したり理屈を並べるまでも無く。
英語の歌の中には、50年代前後?の米国のジャズ歌手が歌っているみたいと思ったのもありましたね。3曲目の上海なんか、ノイズのせいもあり、50年代前後或は戦前のハリウッド映画の挿入歌みたいです。リズムのとり方といい、フレージングといい、音程がしっかりしていることといい、これは誰もが練習してできるものではないと思います。
ほかにも例えば、スターダスト・・・これ大好きなんですが、彼女のは素晴らしいです。低音部など、サラ・ヴォーンみたいといっても言い過ぎではないかも。
演歌と違って喉を絞ることなく全開でしっとりと歌うその声には聴き入ってしまいます。慕情もそうですね。往年のハリウッド映画のバックで流れていてもそんなに違和感が無いといったら言い過ぎでしょうか。ある音から次の音に移るときのスムーズな歌い方が特にそう思わせるのです。
良く勉強したんだろうな、でも彼女ならおそらく、一度聞いただけでどのように歌えば良いのか、すぐ会得したんでしょうね。
それとやはり、A列車で行こう、ですね。これは本当に聞きものです。このような早い調子でもリズムの乗りが良いし、やはり後半のアドリブ調のスキャットだけでも聞く価値がありますね。
彼女はもし、最初からずっとジャズ畑でやっていたとしたら、きっと日本のサラ・ヴォーンといわれるだけでなく、日本を代表するジャズシンガー美空ひばりと言われたことでしょう。彼女のソウルが共鳴するものが結局別の歌の世界となったわけですが、もっと彼女が英語で歌ったジャズ、スタンダードが聴きたくなってしまいました。
天才は何でもできてしまう!
★★★★★
「昭和の歌姫」美空ひばりが10代の頃に残したジャズ・スタンダード集です。最近になって美空ひばりのジャズ関連音源が3枚ほどCD化されていますが、これまでは長いこと「ひばりが歌うジャズ」といえばこのCDが定番でした。
ビートたけしの「北野ファンクラブ」のオープニングタイトルバックに流れていた「スターダスト」をはじめ、珠玉の名曲がずらりと並んでいますが、やっぱり改めて驚くのは、耳の良さと天性のボーカル力です。楽譜も読めない、英語もわからない10代の彼女が、これだけの表現力をもって人々に感動を与えるのです。そんなものすごい才能をもった歌手は後にも先にも出現しないでしょう。しかも、リズム、フレーズ、コード展開など歌謡曲や演歌の楽曲構成とはまったく異質のジャズをこともなげに歌いこなす天賦の才には、ただ驚くばかりです。確か先日他界したダン池田氏の述懐だと記憶しますが、バンドのわずかな音程ミスでも瞬時に聴き分ける天才の耳に、始終極度に緊張していたそうです。またあまりの圧倒的な歌唱力に嫉妬するあまり「ゲテモノ歌手」と一部で揶揄されたようですが、そんな了見の狭い連中も、この音源を聴くと言葉を失うでしょう。
今となっては彼女の動く姿を見るにはDVDか思い出したように放送されるテレビの追悼番組などだけに限られます。特に若い世代(といっても30代以降だと思いますが)にとっては、「演歌」「歌謡曲」のくくりで彼女を聴く場合が圧倒的だと思います。でも、この音源を聴いて実はジャズを歌わせても天才だったことに気がつくと、また違った魅力が発見できるでしょう。いまとなっては叶わぬ願望ですが、この稀代の天才はクラシックやオペラにチャレンジしても、面白かったのだと思います。無尽蔵にほとばしる天才の歌声に、ただ身をまかせて酔いしれてください。
少女スターの誠実な一面
★★★★★
ひばりの少々こぶしの利いたA列車は先人の研究では
エリントン楽団のベティーロッシュのコピーと言われて
います。(スキャット部分も含め) [“ Hi-Fi Elington” に所収]
また英語の歌詞も全くカタカナを読んでいる曲と英語
の発音と言っていい曲が同居しています。
これは手本にする録音から耳で覚えた曲と日本人が
楽譜にカタカナの歌詞を付けた物を見ながら歌った曲の
違いではないかと推理できます。
つまり英単語、文法を習ったのちに英語の歌詞を見な
がらというような学校教育式のプロセスは通っておらず、
いまさらながらにひばりの耳の良さを物語っていると思
いますし、原曲を忠実に歌おうと懸命になっている少女
の姿が浮かんで来てむしろ誠実さを感じるのです。
(ひと言にひばりのジャズとは言ってもどうやら時期に
よってアプローチの違いがあるようです。)
さらに日本語の歌詞がないまぜになった曲もあり、そ
の辺をどう歌いこなしているのかもまた聴いていて興味
の尽きないところです。
油井正一は著書の中で少女時代の美空ひばりのあるス
テージでバックバンドがお手並み拝見という態度で歌手
を孤立させていて義憤を感じたというようなことを書い
ていますがこのレコードの中では充分互角に渡り合って
いるように聞こえます。